竜王戦誕生秘話

近代将棋2002年1月号、「山田久美のおしゃべり対局 将棋観戦記者 山田史生さん」より。構成・文は大矢順正さん。

竜王戦の誕生秘話

久美「山田さんというと、いまでも読売の山田さんであって、竜王戦を作った人ってイメージがあるんですよ」

山田「いや、ぼくが作ったわけではなく、読売新聞社が作ったのですよ」

久美「でも、担当者として連盟と新聞社の間で一番苦労されたと聞きます。山田さんがいなくては、いまの竜王戦はなかったほどだと思いますよ。当時の苦労話を聞かせてください」

山田「もともとは、将棋連盟からの契約金アップの話がきっかけでした。読売新聞社は、囲碁の棋聖戦も持っています。これは囲碁界の最高契約金で2億5600万円です。将棋連盟から、囲碁の棋聖戦にそれだけ出しているのだから、将棋のほうにも出して欲しいと依頼があったわけです」

久美「将棋会では一番高い契約金でしたよね。竜王戦の前身である十段戦は、その次だったのですか。将棋会は囲碁界と違って契約金を公表していないので棋士のほうもわからない人が多いですよね」

山田「竜王戦に関しては賞金額をはじめ契約金も公表しているので構わないですよ。読売新聞社では、囲碁界では自社の棋聖戦が一番だから、契約金をアップするなら将棋会でも一番の棋戦にしてくれ、という条件を出したのです。そして将棋界一番で、ということになったので、囲碁の棋聖戦と同額の2億5600万円で契約したのです」

久美「名人戦より高い契約金となったのですね。十段戦より、どれくらいアップなんですか」

山田「十段戦は1億2800万円でしたから、ちょうど倍額です」

久美「すごい額ですね。倍とは」

山田「しかし、実際は一番ではなく、名人と同格という扱いになった。これは約束が違うと、いまでも不満は残っています(笑い)」

久美「竜王というネーミングは、どう決めたのですか」

山田「いろんな候補名があがった。ぼくも10種類くらいあげました。棋神戦、巨星戦とかね。なかには巨人戦というのもあった。最終的には、竜は中国で一番強く神にたとえられている、また駒の飛車の裏の龍の意味を含めて<竜王戦>に決まったのです。竜は、ドラゴンで中日ドラゴンズを彷彿させるから、まずい!といった意見も出ましたけどね」

久美「竜王の竜は龍のほうが重みがありそうですが、こうして見慣れると竜のほうが親しみやすいですね」

山田「たしかに龍王の意見もあったのですが読売の新聞用語では龍は使用しないこともあって略字になりました」

久美「ところで、いま現在、第14期竜王戦が繰り広げられていますが、山田さんは何勝何敗でどちらが勝つと予想されますか」

山田「いまは読売の人間ではありませんが、やはり竜王戦はもっとも関心がある棋戦。どちらが勝つかというより、すばらしい7番勝負をやって盛り上がってほしいですね」

久美「うまく逃げられましたね(笑い)」

観戦記者として将棋界に思うこと

久美「最後に、女流棋界を含め将棋界に関してはいかがでしょう」

山田「我々、観戦する側から見ると、個性派棋士が少なくなってさびしいですね。研究会ばかりやっていないで、もっと余裕を持って対局以外の顔も見せてほしい。また、女流棋士は、将棋普及面では欠かせない存在だから、力をつけると同時に華やかに賑わって欲しいね」

久美「本日はありがとうございました。またいろいろ教えてください」

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昨日、株式会社ドワンゴが主催する新棋戦が開始されることが発表された。

プロ棋士の新棋戦を創設、2015年6月20日開幕
2016年春、新棋戦優勝者vs最強ソフトの対局「第1期電王戦」開催決定(日本将棋連盟)

個人的には、新棋戦優勝者vs最強ソフトはやらない方が良いと思うのだが、新棋戦創設に関しては喜ばしいこと。

新棋戦の名称は公募されるという。応募期間は2015年6月3日(水)~6月10日(水)。

新棋戦名称応募ページ(ドワンゴ)

竜王戦が誕生する時に、どのような棋戦名称が候補となったかは、田丸昇九段のブログに詳しく書かれている。

竜王戦が誕生した成り立ちと棋戦名の由来(と金横歩き)

 

棋戦のネーミングはなかなか難しいと思うが、どのような名称になるのか、楽しみだ。