「ま、あんたなんかが初段をとれたら将棋も終わりだね」

将棋世界2000年5月号、佐藤紳哉四段(当時)の「紳哉くんの将棋カウンセリング」より。

 最近嬉しかったこと、それは「月下の棋士」のロケで将棋会館に来ていた山口紗弥加さん(将棋記者の役)に握手してもらったこと。

 山口さんは数年前、佐野史郎さん主演のドラマで見て以来好きな女優だったので、とても感激だった。今までのロケではお目にかかれずにいて半分諦めていたのだが、最後のロケという時に好運にもささやかな望みが成就した。

 その手は当分洗わないようにしようと思っていたのだが、1時間もたたないうちに予期せず事態がおきて手が真っ黒になってしまった(ホントの話)。

 結局、すぐに洗うはめになってしまったが、これは神様の嫉妬のせいだと思っている。


Q.悔しい(涙)

 ぼくが姉に「将棋の大会、一度でいいから出てみたいな」と言ったらさんざんバカにされて「あんた将棋始めて何ヵ月だよ」と言われてしまいました。―(中略)―それで悔しいので「今年中に初段を何とかとってやる(ヒェー)」なんて言ってしまいました。それを聞いて姉は「ま、あんたなんかが初段をとれたら将棋も終わりだね」と言ったので、ショックで涙が。

 見返してやるためにがんばって初段をとるか、将棋は終わってないので、あきらめるかアドバイスください。

(長野県 Sくん)


A.チャレンジだ、君の未来は明るい

 為せば成るだ!!頑張ってお姉さんを見返そう。それと泣くなよ、男の子だろ。

 ハガキを見てみると、S君は12歳。将棋は去年の7、8月に始めて今年の1月現在6級とのことだけど、このペースは早い方なので今年中に初段も夢ではないと思うよ。それと今、一番上達の早い年頃なのも強い味方、もちろんすべてやる気しだいだけど。

 お姉さんはS君が初段になれたら将棋も終わりなんて言うようだけど、もちろんそんなことないし一生懸命頑張ればちゃんとそれだけの結果が出るのも将棋のいい所なんだ。大会もどんどん出ようね。

 ただ、本当に頑張ったのに、年内に初段になれなかった、ということもあるかもしれない。だけどもしそうなったとしても一生懸命なS君を見たらお姉さんは「やっぱり駄目だったじゃーん」と言ってバカにはしないと思う。それは一つの目標に向かって頑張る人間はカッコイイからだ。きっとお姉さんもS君のことを見直すはずだよ。S君自身でも、もし「初段」を得ることはできなかったとしても挑戦することによってもっと大きな何かを心の中に刻むことができると思う。

 とにかく可能性は無限、チャレンジしようってこと。ガンバレ!!

(以下略)

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ナイーブで繊細な弟と強気の姉。

「将棋の大会、一度でいいから出てみたいな」など健気で、「大会ではないけれども、将棋ペンクラブの交流会に遊びにおいでよ。初心者でも参加できるし、勝ち星の多い順に好きな賞品が選べるような手合い制の将棋会があるし、プロ棋士の指導対局もあるよ」と言ってあげたくなるほど。

「ま、あんたなんかが初段をとれたら将棋も終わりだね」と言うお姉さんも、なかなか魅力的なキャラクターだ。

弟を泣かせた姉だが、結構仲の良い姉弟にも思える。

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そして、佐藤紳哉四段(当時)のアドバイスが、最上級の素晴らしさ。

本当に良いことを言っている。

惚れ惚れするほどの内容だ。

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もしドラマを作るなら、弟のS君役はTOTOネオレストのCMに出ている男の子の7年後、姉役は8年前の志田未来さん。

S君は佐藤紳哉四段のアドバイスに勇気づけられ、将棋の勉強に邁進し、道場にも通うようになった。

姉は高校生になったが、冷たさは変わらない。夏頃からファストフード店でアルバイトをたまにやっているようだ。髪の毛も茶髪になった。好きな男ができたという話も聞く。

S君は頑張って棋力は向上したものの、11月末時点で3級。

目標の年内初段まで、あと1ヵ月しか猶予が残されていない。

12月に入ってからも道場に頻繁に通い指し続けるが、12月24日に2級に昇級したのが精一杯。

年内の初段は無理だ、肩を落として帰宅すると、お母さんがクリスマスっぽい料理を作ってくれていた。姉はデートか何で外出している。

料理は美味しそうだが、目標を達成できそうにない悔しさから、とても食べる気にはなれない。

食事もそこそこに、自分の部屋に早々に戻って泣くS君。

翌朝遅く、目が覚めると、枕元にプレゼントが置かれていた。

何かと思い開けると将棋の駒だった。外材だけれども彫駒。

両親が買ってくれたものだと思い、お母さんに話しかけると、姉がアルバイトで貯めたお金で買った姉からのプレゼントとのこと。

姉は今日もデートか何かで、もう出かけている。

のようなドラマになるのだろうか。