羽生善治竜王の一冠から二冠への脱却、2017年と2004年の類似点

将棋世界2004年11月号、中平邦彦さんの第45期王位戦七番勝負第5局観戦記「羽生、王位を奪回 激戦制し3期ぶりに復位」より。

 この夏の暑さは格別だった。人の体温ほどの気温が続き、夜になってもあまり下がらない。みんなが音を上げた。

 3年連続の黄金カード、谷川-羽生の王位戦七番勝負は、そんな暑さの最中に始まった。そして9月7日、この第5局を谷川の地元、神戸で迎えた。あっという間だった気がする。

(中略)

 ここまで羽生の3勝1敗。前々期、前期の谷川3勝1敗とはまるで逆の展開になった。その2期とも谷川がそのまま押し切っている。

(中略)

「この二人の勝負は、技量や好不調を超えている。勝敗を決めるのは”運”です。そのとき、どちらが将棋の神様に好かれているかにかかっている」。

 対局前日、神戸のテレビに出演した内藤九段が話していた。二人の勝負の分かれ目は、ぎりぎりの場面で、どちらにその勝負への思い、執着心が強いかにかかっている。そこに勝利の女神が微笑むのだと考えればわかりやすい。

 前2期は谷川が圧勝した形だが、戦いは際どく、ぎりぎりのところで谷川が残した。背景に谷川の無冠返上の思いと、1000勝達成の目標があった。前期もその思いが持続した。だが今期はまったく立場が違う。竜王、名人を失い、12年ぶりに王座一冠だけになった羽生に対し、谷川は王位と棋王の二冠。その危機感とハングリーさの度合いには大きな差があった。

 それが、そのままシリーズに表れたように思う。羽生は腰が座っていた。柔軟で幅広い対応で谷川のさばきを封じ、深い読みと手厚い指し回しで谷川に力を出させなかった。何より、ぎりぎりの局面での強い踏み込みが、谷川得意の終盤の競り合いに持ち込ませなかった。

(以下略)

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羽生善治竜王は、1992年に王座・棋王の二冠となって以来、この25年間で無冠だったことは一度もなく、一冠だったのが2004年と2017年の2回だけで計5ヵ月間。

2004年の時は、この王位戦第5局に勝って王位を獲得し、二冠となっている。

一冠から二冠になった2004年王位戦七番勝負と2017年竜王戦七番勝負を見てみると、5つの共通点がある。それは、

  • 羽生竜王が、そのタイトル戦で過去2回とも挑戦して勝つことができなかった相手棋士からそのタイトルを奪っている。(谷川王位には2002年と2003年に王位戦七番勝負で敗れている:渡辺明竜王には2008年と2010年に竜王戦七番勝負で敗れている)
  • 羽生竜王がタイトルを奪った相手棋士は二冠。(2004年は谷川王位・棋王、2017年は渡辺竜王・棋王)
  • タイトルを奪われた棋士は棋王一冠となる。
  • 羽生竜王が4勝1敗で勝っている。
  • タイトル奪取を決めた第5局の手数が87手。(2004年王位戦第5局も2017年竜王戦第5局も87手で羽生竜王の勝ち)

だから何なんだと言われてしまうと、「何でもありません」としか返せないが、とにかく5つの類似点があるということだ。