1997年の衛星放送の将棋関連の番組で、森内俊之八段と佐藤康光八段が、当時のアイドルタレント佐藤藍子さんと共演した。
休憩時間に森内八段は、佐藤藍子さんに「将棋はできますか?」と声をかけた。
佐藤藍子さんはあまり将棋を知らないようだったが「僕、最近将棋の入門書を出したんですよ」と言って、次の休憩時間には入門書にサインしてプレゼントした。
このことを聞きつけたのが中井広恵女流五段。
(段位は当時のもの)
近代将棋1997年10月号、中井広恵女流五段の「棋士たちのトレンディドラマ」より。
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後日、森内八段に会ったので、さっそく真相を確かめてみた。
「この間、あの佐藤藍子に速攻をかけたんだって?」
すると、隣にいた佐藤康光八段が、
「ちょっと広恵ちゃん、聞いて下さいよ。ずっと休み時間も二人で話しているんですよ。絶対森内君怪しいからよく調べて下さい」
佐藤八段がこんなにムキになるなんて、彼も狙っていたのかしら?
「入門書にサインしてあげたんでしょ?」
とさらに突っ込みを入れると、
「たまたま持っていたんで…本当ですよ」。
「またぁ、ちゃんと用意していったくせに。で、やっちゃん(A級の先生に大変失礼なのだが昔からそう呼んでいたので)はあげなかったの?」
すると、急に佐藤八段が真剣な面持ちで、
「広恵ちゃん、入門書出していますか?」
と聞いてきた。
「次の一手の本は出しているけど、入門書はないの」
「一冊は出しておく一手ですよ。初対面の人にあげるには一番ですから。僕も今まで入門書の大切さがわからなかったんですけど、この日ほど出していなかったことを後悔した時はありません。だって、佐藤藍子さんにいきなり『康光流現代矢倉』をあげても変な人と思われるだけでしょう」
確かに、あの本はプロが読んでも、面白い高度な本。初心者がもらっても、目をパチクリさせてしまうだろう。
森内八段には、それから何を聞いても「さぁー」とはぐらかされるばかり。一方、佐藤八段は、よほど悔しかったのか、ずっと入門書の話ばかりしていた。
そして、さんざん話をした後、私の顔を見てアッと叫び、決まり文句の
「原稿には書かないで下さいよ」。
ごめんね、書いちゃった。でも、あの時約束はしなかったものね。
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調べてみると、佐藤康光九段の入門書が、この翌年に出版されている。
電光石火の速さだ。
![]() | 将棋入門 (小学館基本攻略シリーズ) 価格:¥ 840(税込) 発売日:1998-06 |
ちなみに、森内俊之九段が佐藤藍子さんにプレゼントした入門書は、次のものになると思われる。
![]() | はじめての将棋―図解・すぐ役に立つ実戦入門 (森内優駿流棋本ブックス) 価格:¥ 945(税込) 発売日:1997-04 |