詰ませたくなる形

故・塚田正夫名誉十段のエピソード。

近代将棋2001年3月号、永井英明さんの「近代将棋泣き笑い半生記③」より。

 戦後の詰め将棋の第一人者といえば、プロでは、塚田正夫先生をだれでも押すことでしょう。

実戦形で鮮やかな手順、詰ませたあとの快感! すばらしい作品ばかりでした。

先生はいつも「詰ましたくなるような形が大切」と言っていました。それが「塚田流」と呼ばれた多くの作品群です。

本誌では昭和29年ごろから、先生が亡くなる昭和52年ごろまでの二十数年間、一度も休まずに、巻頭に先生の詰将棋を飾らせていただきました。

将棋雑誌の編集は、実戦譜にせよ詰め将棋”最高のものをファンにお届けすること”に尽きる、と私は思います。それには塚田先生の作品はぴったりでした。

先生の人柄は誠実そのもの。口数が少なく、それだけに一言一句がいまでもいくつも思い出されます。

昭和22年に名人を獲得され、NHKが取材にきたとき、「えへん」と咳払いを一つしただけ。それで出演料をもらったというのが、ご自慢の一つ。

ある席で、親しいファンの一人が、「先生の詰め将棋は全部、ご自分でつくられるのですか」と聞いたら、何と答えられたと思いますか?

「自分でつくりますよ。とくに近代将棋は原稿料が安いから、自分でやるよりしょうがない」

また、詰め将棋はどんな大名人がつくっても余詰め(正解手順と違う王手で詰むこと)は避けられないようです。日本一の塚田先生でも、ときには余詰めを出されたことがあります。

必ず、電話がきまして、「すまん、すまん、これから罰金刑を払いにいくから」そう言って、ひょうひょうとお越しになる。

編集室にこられて、そこにいる何人かを連れて、寿司屋かなんかにいかれるんです。誠実な先生らしくてうれしかったのですが、忙しいときには、ちょっと困ったりも…。

また、先生は色紙を依頼されると、よくご自分の詰め将棋を揮毫されます。

中野周辺の寿司屋などでは額に入ったその詰め将棋をよく見かけたものです。

形はいいし、やさしそうなので、お客さんが詰ましにかかるのですが、酔眼で眺め取り組んでも、そう簡単ではない。杯を手にして「うーん」とうなっている。

その色紙に揮毫されていた一局を皆様に考えていただきましょうか。

寿司屋のカウンターにいるつもりでいかがですか。

塚田詰ませたくなる形

※図の詰め将棋は19手詰めです。

「詰ませたくなる形」への4件のフィードバック

  1. 3手目が盲点だった。いかにも塚田九段らしい作品ですね。

  2. まるしおさん
    そうですね、3手目がビックリです。寿司の味がわからなくなりそうです。

  3. 昔、「将棋世界」だったと思いますが、塚田名人が解けなかったという5手詰めの問題を見た覚えがあります。その後いろいろと探してみたのですが、分かりません。教えていただけないでしょうか。

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