羽生善治五段(当時)「いえ、森内君の妹にはかないません」

将棋世界1989年6月号、鈴木宏彦さんの「羽生善治、強さの秘密」より。

 「天才羽生」の名を聞きつけたあるルポ・ライターが羽生にインタビューをした。17、8歳で名人クラスの棋士をバッタバッタとなぎ倒す天才少年の秘密を探り出そうというわけだ。

「いくら話を聞いても何も出てこないんだもの、いやになりました」

 ライター氏、インタビュー後の言葉。ごく平凡なサラリーマン家庭に生まれ育ち、平凡な小学生が将棋を覚え…。羽生に対して「天才となんとかは紙一重」タイプの天才を期待すると、がっかりすることになる。

 確かに将棋盤の前を離れた羽生はどこにでもいるような、ごく平凡な若者だ。だけど将棋盤の前にいる時の羽生は、決してどこにでもいるような若者ではない。勝負に臨んでの気迫、負け将棋を粘り抜く闘志、大先輩が相手でもあくびしちゃうような図太さ、そして盤上での度胸。

―現在の家族は。

羽生 外資系のエンジニア会社に勤めている父と母、それに高3の妹の4人家族です。両親のしつけは厳しい方だっかたもしれません。妹が美人? いえ、森内君の妹にはかないません。両親は将棋のことはほとんど知りません。

―小さい頃の羽生少年は?

羽生 今とそんなに変わっていません。無口でおとなしい子供だった。

―習いごとは。

羽生 ピアノと公文式の塾で算数を習ってました。学校の成績はまん中くらいだったけど、算数だけはよかったですね。

―お酒は。

羽生 進んでは飲みませんけど、人と食事する時、ビールくらい少し。

―麻雀は。

羽生 知りません。囲碁は最近始めたばかりで3級くらい。

―高校生活から離れて大分生活のリズムが変わったでしょう。

羽生 はい。これからは将棋一本というか、打ち込む時間は増えるでしょうね。昼まで寝ないようにするのが目標です。

―棋士の友人は。

羽生 森内君とか先崎君とか、割と仲がいいですね。

―身長・体重は。

羽生 172センチ、53キロ。

―他の10代棋士をどう見てますか。まず森内四段。

羽生 慎重で正確です。一番気になる存在かもしれない。

―佐藤康光五段。

羽生 将棋を学問としてとらえているような気がします。真面目で性格もいい。やっぱり気になる人です。

―先崎四段。

羽生 思いきりのいいところが長所。

―村山五段。

羽生 変わっているというか、ユニークというか…。彼の方が終盤強いというのは本当かもしれません。

 「これからは将棋一本」このセリフには、しびれる人も多いのではないだろうか。そういえば羽生の小学生時代からのライバル・森内四段も今春高校を卒業して将棋一本の生活に入るのだ…。その森内四段に羽生の性格について聞いてみた。

森内「小学校のころからおとなしくて控えめでした。でも負けず嫌いでなかなか投げないところも今と同じ。小学生の時、どこかの大会で当たって初手▲5八飛と指したら△5二飛とやられたことがありました。負けず嫌いでしょ」

 ▲5八飛に△5二飛。うーん、面白い話だ。負けず嫌いであることは一流棋士になるためには絶対必要な条件の一つだろうが、羽生のそれは恐らくどんな棋士と比較してもひけをとらないという気がする。人間的に変わっていなくとも、そういうところ、羽生はやっぱり一種の天才なんじゃないかと思う。

 最後に羽生に聞いてみた。「これからもっと強くなると思いますか」と。

 羽生の答は明快だった。

「強くなれなきゃ困ります」

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身内に対して厳しい目になってしまうのは、よくあること。

森内俊之九段の妹さんの話は、他にも出てくる。

先崎学五段(当時)の「森内六段(当時)の好きなところ」

「私、森内の妹です」