将棋世界1994年9月号、神吉宏充五段(当時)の「対局室25時 in 関西将棋会館」より。
7月21日に行われた全日プロから一局紹介しよう。有吉九段-杉本四段の対戦となったが、この二人の対局となると予想されるのが、四間飛車-居飛穴。どちらもこの形には絶大の自信を持っているが、やっぱり不思議なのは杉本。相手が居飛穴だと、どこかしら嬉しそうなのだ。この日の対局でも、お昼休みに会館の販売部で楽しそうに買い物をする杉本を見た。
「おっ、何買うたんスギゾウ」
「あっ、ええ将棋盤を…」
「どれ買うたんや、えーとこの高いやつか?」
「いえ、一応六寸の盤ですけど、榧じゃなくてカツラなんです。いえ、ボクが使うんですけど、前から欲しかったんです」
さてその杉本四段の居飛穴退治をご覧いただこう。4図は居飛穴最大の弱点である端攻めを敢行した杉本、もちろん有吉九段の頑強な抵抗は承知の上、端に気を取られているスキに、絶妙の歩使いを見せてくれる。ここからの7手が当たればたいしたもんでっせ。
4図以下の指し手
△5六歩▲同飛△3六歩▲同飛△4六歩▲同飛△3五角(5図)もうなにも言うまい。手順だけ見てもらえば、解説はいらないだろう。ダンスの歩ならぬ、ダンスの飛車とでも言うべきか。とにかく創っても出来ないような手順で、杉本は角を捌いて優勢に。
6図は終盤も終盤、あと3手で有吉九段の投了となるのだが…うーん、これは簡単か。
6図以下、△8八角成▲同銀△9六竜(7図)まで杉本四段の勝ち。
振り飛車党の皆さん、居飛穴にガッチリ組まれても、こんな勝ち方が出来れば苦手意識なんか吹っ飛びまっせ。ぜひ杉本将棋に注目を!
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杉本昌隆四段(当時)は、ほとんどの先輩から「スギゾウ」と呼ばれていたのか、あるいは神吉宏充五段(当時)だけから「スギゾウ」と呼ばれていたのか、どちらかはわからない。
「スギゾウ」ということでは、
の例があるが、どちらとも関連はなさそうな感じがする。
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4図からの、杉本昌隆四段(当時)の魔法のような手順。
△5六歩は銀取りなので▲同飛は必然。
次の△3六歩の桂取りに対して▲5五銀が利けば良いが、△同角▲同飛△5四香でマズいので▲同飛。
△4六歩がまた銀取りなので▲同飛。
そして△3五角(5図)となっては先手の飛車が必ず取られてしまう。
大向こうを唸らせるような、論理的で鮮やかで絶妙な手順だ。
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