近代将棋の発刊が続いていれば、そろそろ7月号発売のころ。実は7月号用に書き終えていた原稿があるので、ここに載せてみたい。(文中に出てくる楽曲の試聴もできます)
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六本木・ゴールデンカップス
戦前から戦後にかけての作家には愛棋家が多かった。菊池寛、幸田露伴、坂口安吾、井伏鱒二、永井龍男など多数にのぼる、
そのような環境もあって、菊池寛が文藝春秋社長時代に、東京日日新聞社(現在の毎日新聞)と文壇将棋大会を開催した。 その後、文壇将棋大会は文藝春秋主催を経て、週刊ポスト文壇名人戦と姿を変える。文壇名人戦は1991年まで行われた。
その後、文壇将棋大会的な催しは久しく行われなかったが、1999年と2000年に将棋ペンクラブ主催で「文壇将棋名人戦」が開催された。
文壇とはいいながら、昭和の頃ならともかく平成となると、作家だけを参加対象とすると人数が十分に集まらない可能性もあるので「将棋を愛する表現者」を招待者とした。
優勝は1999年が森本レオさん、2000年は下平憲治さんだった。
今年は将棋ペンクラブ大賞20回目の年でもあるので、久々にこのような大会を開こうという計画がある。文壇のみならず、芸能界、スポーツ界などにも間口を広げた将棋大会だ。
芸能人といえば、私はゴールデンカップスのデイヴ平尾さんに将棋を指してもらったことがある。
ゴールデンカップス
ビートルズが日本公演を行ったのは昭和41年のことだが、この直後から日本ではグループサウンズが数多くデビューした。ベンチャーズ(日本でのみ人気があったと言われる)やローリングストーンズの影響も大きかった。熱狂的なグループサウンズブームは昭和44年まで続く。
グループサウンズの中でメジャーだったのは、ザ・タイガース(沢田研二、岸部一徳)、ザ・スパイダース(堺正章、井上順、かまやつひろし)、ブルーコメッツ、ザ・テンプターズ(萩原健一)、ゴールデンカップス。アイドル系ではザ・ジャガーズ、ザ・カーナビーツ、ジ・オックス、カレッジ系ではザ・ワイルドワンズ、ヴィレッジシンガーズ、ザ・サベージ(寺尾聰)など。
この中で、デイヴ平尾さんがリーダーでありヴォーカルを担当するゴールデンカップスは、その頃演奏力とは無縁なグループサウンズが大多数な中、本格派として特異な位置を占めていた。
ゴールデンカップスは昭和42年に「愛しのジザベル」でデビューした横浜のグループサウンズだ。メンバーにはマモルマヌー、ルイズルイス加部、エディ藩、ミッキー吉野、後期には柳ジョージも在籍していた。「長い髪の少女」「愛する君に」「本牧ブルース」など名曲が多い。
野球漫画「巨人の星」に出ていたオーロラ3人娘が「アイラビュアイラビュ…」と歌ってが、元歌はゴールデンカップスの「クールな恋」だ。
デイヴ平尾さん
1992年、私はその頃、グループサウンズや70~80年代のロックを演奏してくれるライブハウスが大好きでよく通っていた。よく行く店のバンドのバンマスは以前グループサウンズにいた人であり、当時の雰囲気を色濃く体現していた。
私は自分の好きな曲が演じられるたびに全身に鳥肌が立つのを感じながら濃い水割りをグイグイ飲んでいた。至福の瞬間。ある日、知り合いが六本木にあるライブハウス「ゴールデンカップス」へ行ってみようと言い出した。
ゴールデンカップスのデイヴ平尾さんが経営している(※当時)。
演奏領域はゴールデンカップスの曲とソウルであり横浜風の都会的な雰囲気を醸し出していた。他のグループサウンズの曲は演奏しない。
「本物のデイヴ平尾さんだ」
初めて店に入った時、ミーハーな私は感動した。
薄暗い店内、ゴールデンカップスのレコードジャケットが所狭しと壁に貼られている。後でわかったことだが、この店のギターはダウンタウンブギウギバンドでリードギターをやっていた人だった。
「長い髪のしょーじょ こどくーな瞳 …」
「長い髪の少女」が歌われている最中、私は店内を見渡した。
壁に、このような場所では絶対に見ることのできないと思っていた、額の中に入った将棋の四段の免状が飾ってある。
「平尾時宗殿 夙ニ将棋ニ丹念ニシテ研鑚ヲ積ミ練達ニ長ケタルヲ認メ茲ニ四段ヲ允許ス」
デイヴ平尾さんは四段なんだ。本名は時宗さんなんだ。
その後「ゴールデンカップス」に数回行くことがあった。
ある土曜日、ステージの合間に水割りグラスを持ったデイヴ平尾さんが席へやってきた。
「いやー、最近よく来てくれているねー、 音楽好きなんだ」
「ええ、グループサウンズの曲が好きですね。ゴールデンカップスでは特に銀色のグラスと本牧ブルースが大好きです」
「おーっ、渋いね渋いねー」
「ところでデイヴさんは将棋四段なんですね」
「えっ、気が付いてくれた? 嬉しいねえー。そーなのよ、なかなか免状見てもわかってくれる人いなくってさー。でも 嬉しいね嬉しいね、オレって将棋大好きでさ、音楽よりも将棋が好きなーんちゃって、ガハハハハ」
「なかなか四段になんてなれませんものね」
「そうなのそうなの。ずっと前も将棋ジャーナルで、小学生の頃の山田久美ちゃんと対局して負けちゃったけど、残念だったよなあ。終盤までは優勢だったんだけど」
「将棋ジャーナルに載ったんですか、すごいですね」
「そうそうそう、あっ、もしかして君は相当指せるんじゃない?」
デイヴさんの顔が更に笑顔になる。
「いやー、二段くらいです」
「いーねいーねー、じゃあ店が終わったら将棋指