私が生まれてはじめて買った将棋世界昭和46年11月号より、現代でも参考になるトピックスを抜粋する「振飛車党の古き良き時代」シリーズ再開します。
内藤国雄八段(当時)の中級向け講座「駒の交換」より。
将棋ペンクラブ大賞が当時あったら1次推薦したくなるような内容なので、はじめの部分をそのまま引用します。
中盤型・終盤型
中盤から終盤にかけての感覚の切り換えに失敗することがある。
これには次の二つの型があり、すべて将棋を指す人はいずれかに属する。
A型=終盤に入っているのに中盤の感覚から抜けきれない。切り換えが遅れる。これを中盤型という。
B型=中盤のおわりきらないうちに終盤の感覚になってしまう。切り換えの早すぎるもの。これを終盤型という。
一般にA型は中盤に自信を持つ人、B型は終盤に自信を持つ人が多い。心理的にはA型は「負けまい」の心が強く慎重にすぎる傾向があり、B型は「勝とう」の心が強く慎重を欠くうらみがある。
(中略)
勝負の安定性(勝率)は中盤型の方がすぐれているということはいえると思う。
現役や過去の棋士を見てそういう感じがするのである。
中盤型は長引かしても結局勝利を手にし、終盤型は鮮やかに勝つ代りに勝利を失うことも多いということであろう。
終盤の感覚
序・中・終盤を通じて感覚の移行がある。それがスムーズにいっている時は意識しないがつまずいてみて初めてそういう感覚の流れというものがあることに気が付く。
我々は感覚を読むのではなく、感覚の上に立って読むものであり、「手」は感覚に方向づけられるのである。
駒と手の計算に関するものは感覚の中でも中心的なものだがこの二つの関係について次のように表現した人がある。
序盤…駒得>速度
中盤…駒得=速度
終盤…駒得<速度
この図式は非常におおまかだが役に立つ。
終盤については、駒の損得より速度が大切ということ。平たくいえば「駒損しても手をかせげ」である。(以下略)
その後、中盤にしか見えない局面を終盤とみて敵に迫り成功した例が解説されている。
[例題1]
この局面は中盤か終盤か迷うところであると書かれているが、個人的には中盤にしか見えない。ところが、寄せの名手である塚田正夫九段は、既に終盤とみて驚くべき速度で敵玉に迫った。ここから15手で後手玉は寄せられてしまう。左の図以下、▲2五金△同金▲同飛△3四金▲3五角△同金▲同飛△同銀▲3四金。
飛車、角をぶち切って、あっという間に寄せの拠点となる▲3四金を打ち据えた。 内藤八段は「読みにも句読点といったものがあるが、この3四金のような手が発見できると読みに区切りがつけられる」と書いている。この後も塚田九段の肉薄は続く。△6一角▲3三歩△同桂▲4三銀△同角▲2三金打。
「4三の犠牲から2三金打はいささか強引にすぎるようだがゆるみのない運びで以下寄せ切って先手が勝った」とある。
それにしても凄まじい手順だと思う。
つづく