内藤國雄九段と酒

先週は故・勝新太郎さんの将棋や酒の飲みっぷりのことを、内藤國雄九段が近代将棋に書いた記事などを通して紹介したが、今日は内藤國雄九段の飲みっぷりについて。

近代将棋2005年12月号、鈴木宏彦さんの「将棋指し なくて七癖」より。

2003年の出来事。この日、内藤九段は東京で行われた対局で快勝していた。

太字が鈴木宏彦さんの文

終局後の内藤九段はご機嫌で、「ちょっと一杯行こうか」ということになった。

鈴木宏彦さんはその対局の観戦記者。それまで鈴木さんは、何度か大勢の席で内藤九段と飲んだことはあったが、二人で飲むのは初めてだった。

最初は緊張していたが、ご機嫌の九段は例の話術でこちらを楽しませてくれる。まず生ビールをジョッキ2杯ほど飲んだあと。焼酎のボトルに移る。

内藤九段といえば、日本酒のイメージがあるが、「日本酒はうますぎて飲みすぎてしまう。体に悪いからなあ」とのことだ。

午後6時から飲み始めて午後10時頃には焼酎のボトル2本が空いた。こちらはもうへべれけである。店が閉店になってやれやれと思ったら、九段は、「あと一軒しか行かんぞ」とおっしゃる。もちろん行く。

「あと一軒しか行かんぞ」

デフォルトが「何軒も梯子する」という前提がうかがえて、私のような呑ん兵衛にとっては、とてもワクワクする言葉だ。

2軒目の居酒屋でさらに焼酎のボトルが1本空く。午前零時。ここで、「せっかくやから○○君や○○君も呼ぼう」ということになった。

必然的に3軒目。そのあとのことはよく覚えていない。どこかで何かをたくさん飲んだような気はする。宿に帰って寝たのは午前4時過ぎだった。

呑ん兵衛の模範あるいは鏡と言っていいと思う。

この話には続きがある。翌日は都内であるパーティーがあったのだ。こちらはひどい二日酔いアンド頭ガンガンの状態でそのパーティーに出席した。気持ち悪い。当然酒の匂いをかいだだけで吐きそうになる。その席に内藤九段も現れた。颯爽としていて、前夜の酒などどこ吹く風。

当時の対局日程などを調べてみると、あるパーティーとは2003年10月に開催された原田泰夫九段の盤寿をお祝いする会

私も参加させていただいたが、この日は私もひどい二日酔いでヨレヨレだった。

パーティーの帰りがけ、内藤九段から声をかけられた。

「これから名古屋まで帰るン?そんなら新幹線でちょっとだけ飲もか。昨日のことがあるから、もうそんなに飲めへんで」

私は思わず、「先生、今日は一人で帰ることにします」と言っていた。観戦記者としては完全に失格であろう。

その昔、ほとんど酒びたりの毎日を送っていた芹沢博文九段がこう言ったことがある。

「オレもいろんな酒飲みと飲んだが、内藤は本当に強い。あいつと飲むと殺されそうになる」

その時は、ハアそんなものかと思って聞いていたが、今になってみてなるほどと思う。

「あと一軒しか行かんぞ」と同様、「昨日のことがあるから、もうそんなに飲めへんで」も、内藤九段だからこその非常に味のある言葉に感じる。