着付け名人の美女が見た羽生青年と森内青年

将棋世界1990年5月号、東公平さんの第8回全日本プロトーナメント決勝三番勝負(谷川浩司名人-羽生善治竜王)観戦記「竜虎相搏つ」より。

 第2局は3月16日に、大阪市北区の「芝苑」で行われました。谷川名人は、過去7回のうち5回も決勝戦に出て4回優勝という大記録を持っていますが、この「芝苑」では不敗。若き副社長(社長令嬢)の久島真知子さんと専務の益本昌明さんが大の将棋ファンでそして谷川ファンでもあります。

 年に一度、ひな祭りの前後に一回しか行わない上、東京同士の大内-中村戦では行かなかった(真知子さんは、寂しかったわ、と言っていた)にもかかわらず、対局にあてる広い部屋の天井に、モニターテレビ用のカメラが設置してあるのです。私の知る限りでは、全従業員の品の良さ、心遣いの二点において、最高の対局場であると思います。

 羽生竜王は初めてですから、行き届いたサービスには少々驚いていたようでした。なにせ新大阪駅を出たとたん、和服の美女が駆け寄って暖かいおしぼりを差し出すのですから、その情景は同行のテレビカメラマンが見逃さず撮っていました。

 名人と竜王は一応「同格」とされていますが、席次を決める必要がある時は、先輩が上。むろん、竜王戦だけは羽生チャピオンが上座です。

 戦いは、カメラの放列の前で始まりました。去年の森内四段は、着慣れぬ和服とか、女性の至れり尽くせりの世話が却って負担になった感じでしたが、竜王・羽生はすでに二日制タイトル戦八番勝負を経験していますから、堂々と構えており、われわれ記者達も「大人になったねえ」と感嘆。「地位が人をつくるの典型でしょう。

 新聞には書けない話をひとつ。

 去年森内、今年は羽生と、続けて十代棋士を担当した丸顔美女に聞きました。

 「どっちが可愛いですか」

 タイプがまるで違って、どちらとも言えないそうです。たとえば・・・。

 芝苑は旅館じゃないから宿泊は近くのホテル。朝食は芝苑が用意するので、早めに迎えの人が行き、歩いて来ます。

 いざ10時前、着付け名人の丸顔美女と二人になった時、森内少年はパッパッと洋服を脱ぎ捨てて☓☓☓☓☓(これ伏せ字)でドーンと突っ立っていた。

 ところが羽生少年は、肌襦袢を急いでひっかけて、向こうを向いちまったという話でした。

 さて、少しは手の説明もしないと叱られそうです。

(以下略)

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☓☓☓☓☓という5文字の伏せ字が気になる。

男性が和服を着る場合、丸裸になる必要はないので、下着一枚で仁王立ちになっていたということだろうか。あるいは・・・

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芝苑は将棋界ではおなじみの老舗料亭。

女将の久島眞知子さんは将棋普及指導員の資格も持ち、2006年には大山康晴賞を団体として受賞している。

芝苑では、お茶の係の担当者(和服の女性)が、前日の検分の前に、大阪駅や宿泊先のホテルまで対局者を出迎えに行くことになっている。

磯辺真季さんの観戦記

1996年の全日本プロトーナメント決勝三番勝負で芝苑を訪れた森下卓八段(当時)は、芝苑の茶室で働いていた麻衣子さんを見初め、翌年に結婚することになる。

森下卓九段の結婚