藤井システムの優秀性を二番目に気づいた棋士

将棋世界1999年11月号、森下卓八段(当時)の連載自戦記「あきれ返った大錯角」より。

 さて、藤井猛竜王と鈴木大介六段を純粋な振り飛車党とすれば、私は純粋な居飛車党、そして羽生四冠は居飛車を主体とするオールラウンドプレイヤーと言えるだろう。

 藤井システムの優秀性に気づいたのは創案者の藤井竜王の次が羽生四冠だと思う。その優れた視点と先見性には、敬服せざるを得ない。ちなみに私は藤井システムをはじめて見たとき、単なる奇襲戦法のように思い、とても永続性がある戦法とは思えなかった。飛先不突き矢倉にしても、登場して5年ほどしてはじめてその優秀性に気づいた。この鈍さには我ながらあきれるが、こればかりは才能なので仕方がない。

 優れた先見性と、万能とも思える融通性を持つ羽生四冠だが、それでもやはり核となる戦法は在り、それが矢倉なのではないかと思う。

(以下略)

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羽生善治三冠は、藤井猛九段との王位戦が終了した直後から、藤井流の角交換四間飛車を多用するようになっている。

歴史は繰り返しているということだろう。

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藤井システムを初めて見たとき、「これは居飛車だ」と思った。

もっと厳密に言えば、居飛車の感覚がなければ指しこなせない戦法だと感じた。

低い陣形の美濃囲いのままで、左半分にある飛車・角・銀・桂を捌いて暴れまわる昭和の振り飛車に安住感を感じている私には、とても真似のできない戦法だった。

それに比べれば、角交換四間飛車は、振り飛車の雰囲気がかなり出ているので、アマチュアでも指しやすい戦法だと言える。

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ところで、私は最近、将棋倶楽部24で新たにIDを取得した。

石田流と7八金型向かい飛車しか指さない私が居飛車を指し続けたらどうなるかを実験したくて、居飛車専用IDを作ったのだ。

結果的には、振り飛車IDに比べ居飛車IDは250点低いレーティングで落ちついてきた。

やはり差が大きいものの、当初思っていたよりは差が開かなかった。

どんなに振り飛車にしたくとも、ぐっとこらえて居飛車を指す。ひねり飛車戦法も一種の振り飛車なので封印する。

初めのうちは、禁煙でもしたかのように振り飛車禁断症状が出ていたが、最近では徐々に抵抗感がなくなってきた。

指していて面白いのは横歩取り、次に角換わり腰掛銀。

対振り飛車は微妙な気持ちだ。

しかし、矢倉と相掛かりは居飛車の王道なのか、どうしても指そうという気がまだ起きない。

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居飛車をやってみて感じたのは、角交換四間飛車にしてくる人が多いということ。

角交換四間飛車>ゴキゲン中飛車>石田流の順になると思う。

角交換四間飛車に対しては、早めに腰掛銀、あるいは4六歩・3七桂型にすれば有効だと聞く。

このようなことを考えるだけでも、居飛車の毒が私の体の中に入りつつある証拠かもしれない。

洋食しか食べていなかった人が和食を食べるようになれば食の世界が2倍に広がる。

それと同じように、居飛車も知れば将棋の楽しみ方が広がるのかどうかとエセ居飛車党になって2ヵ月。

ここまできたら、あと半年はネット上では居飛車党を続けてみたいと思っている。