将棋世界1990年2月号、青島たつひこさん(鈴木宏彦さん)の「こまごまスクランブル ’89将棋界十大ニュースを探るの巻」より。
第4位 竜王戦第1局、終盤、投了のシーンまで公開で対局
「一番最初になまこを食った人は偉大だ」とは、よくいわれる言葉。なまこを食うことがそれほどのことかどうかは別にして、何かを最初にやるということが、大変なことであるのは事実である。
「よくあそこまでやったなあ」
10月19、20日に行われた竜王戦第1局の公開対局を見て、将棋界関係者ならみんなそう思ったはず。公式戦の対局の終盤、それも大タイトル戦の終盤となれば、関係者以外はたとえごきぶりだって立入厳禁というのが、これまでの将棋界の常識である。
「私だったら、あそこまでは困る」という先輩棋士の声もかなりあったのも確か。だが、現実に公開対局は好評だったし、あの形が将棋の対局に新しい可能性を作ったことも確かだろう。特にああいう形の公開対局を提案したという島竜王の感覚はすごいと思う。ただし、その島もなまこは絶対に食べられないそうだ。
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第2期竜王戦第1局は、島朗竜王(当時)の提案で、2日間フルでの公開対局となった。
対局場は川崎市民プラザ。
この会場で行われた前夜祭に、両対局者(島竜王、羽生六段)に記念品を渡すミッションで川崎市から派遣されたのが二人のミス川崎。
そのミス川崎のお一人と結婚をしたのが島朗九段。
島竜王の公開対局の提案がなければ川崎市民プラザで対局を行うということはなかっただろう。
そういう意味では、島朗九段は自らの手で幸運を引き寄せたと言えるだろう。
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青島たつひこさんは「なまこを食うことがそれほどのことかどうかは別にして」と書いているが、私はやっぱり一番最初になまこを食べた人はすごいと思う。
私には生まれてから一度も口にもしたことがない食べ物がいくつかあり、そのうちの一つがナマコ。
生ガキもそうしたかったが、そうもいかない事情があり二度だけ食べた。
なまこも生ガキも、最も関わりたくない食べ物だ。
里芋、山芋、自然薯、キュウリ、生トマト、百合根、芽キャベツなども苦手とする私は、森信雄七段が里芋を、中井広恵女流六段がキュウリを苦手と知ったとき、とても嬉しくなったものだった。
好きな食べ物が共通しているよりも、嫌いな食べ物が一緒のほうがインパクトが強い。
今回、島朗九段がなまこが食べられないと知り、あらためて嬉しくなった。