故・芹沢博文九段の著書「指しつ刺されつ」より。
”駒音コンサート”なるものがある。岩渕龍太郎、山本直純氏が中心になって将棋好きだけの楽団員と、将棋指しの歌好きを集めて楽しもうという席である。
第1回は霞ヶ関イイノホールでやった。将棋あり、歌あり、そしてその模様をNHKで放送させた。大好評だったかと思う。
谷川名人 哀愁のカサブランカ
米長九段 上海帰りのリル
二上九段 歩
森安八段 兄弟船
田中(寅)八段 昴
内藤九段は古城私が憧れのハワイ航路
加藤(一)九段、”この道”を50人ほどのオーケストラをバックに、勝手に歌いまくったのである。
勝手に歌うといっても50人ほどのオケ、これ、歌ったことがなければ、わからないくらい恐ろしい。
バァーン!
この音一発くらっただけで、ほとんど気絶しそうになる。気が狂いそうになる。カラオケで歌っているのとは音が違い過ぎるからである。いつもずうずうしい将棋指しが、皆あがっているのがわかるが、どうしたら気を静めることができるか、その手を知らぬ。
将棋番組なら間違ってしゃべっても、なぜその読みが間違ったかまで説明できる。
だが歌の場合は違う。アマだから修正の仕方を知らぬ。だから皆あがっているのである。一人だけ違う男がいた。
”この道”の加藤九段である。その歌いっぷり、見事であった。簡単にいうと勝手放題に歌ったということ、音程もヘチマもない、オーケストラ、ついて来るのにヨロヨロとしていた。
もう一節あるのに突如やめちゃったりするからオケの人たち、えらい苦労したと思う。
第2回があり、請われて私も歌った。
”ドライブウエイに春がくりゃ、イエイエーエイ、イエイエーエイ、イエイエーエイ、プールサイドに……
レナウンのCMソングである。
レナウンの言葉が入るのはNHKとして困るという申し入れが突如あり”レナウン”のところを”大根、人参、レンコン娘が……”と替えて歌ったのであるが、私の歌だけは放送されなかった。
(以下略)
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将棋世界1987年2月号、グラビア「第2回駒音コンサート 歌声も高らかに」より。
(11月29日 東京イイノホール 主催 日本楽壇将棋連盟)
一昨年大好評だった駒音コンサートが、今年は三笠宮寛仁殿下を迎え、楽壇将棋連盟と女流棋士の連将棋や、フルオーケストラによる将棋にちなんだ曲の演奏など、盛りだくさんの内容で開かれた。
なかでもファンのお目当ては棋士の紅白歌合戦。写真の他に白組は二上九段、森安八段、田中(寅)八段が、紅組は田丸二段、神田1級が出場。会場の応援は圧倒的に紅組。これはしょうがないですね。
谷川棋王の写真…将棋が強くて、背が高くて、年収がン千万で、独身の24歳でしかも「恋人も濡れる街角」の谷川棋王
芹沢九段の写真…ドライブウエイに春がくりゃ~ 一番会場にうけていましたよ芹沢先生。オーケストラの指揮をとるすぎやまこういちさんも大爆笑
中井広恵女流名人の写真…「どことなく中森明菜に雰囲気が似てますよ」とは審査員評。「禁句」と歌ってはにかむ広恵ちゃん
大内延介九段の写真…なかなか味のある「無法松の一生」さすがは楽壇の名誉会長、大内九段
林葉直子女流王将の写真…「SOSOTTE」とは何やら意味深で、軽快なリズムはオジサン族にはついていくのが大変。とちってもカワユイ直子ちゃん
長澤千和子女流二段の写真…軽妙洒脱な山本直純さんの司会・進行。プロデビュー予定の長沢さんは持ち歌の「かもめに逢えたら」を披露。「さすが」と山本さん
山田久美女流初段の写真…ルックス抜群の久美ちゃん。「I LOVE YOUより愛してる」ってジュリーのことかな
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15年ほど前までは、毎年今頃になると「駒音コンサート」が行われていて、2000年の第14回まで続けられた。(2004年に一度復活開催されている)
山本直純さんが2002年に亡くなられているので復活開催は非常に困難と思われるが、もし今の時代、開催されるようなことがあったら、どの棋士が何を歌うのか、考えてみるだけでも楽しいかもしれない。
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加藤一二三九段は、第1回駒音コンサートについて当時を振り返っている。
芹沢博文九段の文章と合わせて読むと、より深まりが出てくる。
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(駒音コンサート関連記事)
1991年→1991年の駒音コンサート
1992年→谷川浩司竜王(当時)「どういう意味じゃ!」
1993年→1993年の駒音コンサート