将棋世界2002年1月号、田丸昇八段(当時)の第14期竜王戦第2局〔藤井猛竜王-羽生善治四冠〕のポイント「最大の功労者は自陣歩の三手」より。
第2局の将棋は、形勢有利の藤井竜王が楽観から疑問手を出したため、終盤で羽生四冠に猛迫されて逆転の様相が見えました。最後は▲2八桂や▲3九銀など、次の一手のような妙手で勝利を収めました。しかし陰に隠れた最大の功労者は、観戦記の表題にもなった三手の歩でした。熱戦を振り返りながら、それを再現します。
A図は飛車の横利きを止める▲7八歩。
普通は▲6八歩ですが、飛車を7筋に呼び込めば、▲4五馬と引く手が飛車取りになったり、▲8二飛と打つ手が角取りになる仕掛けです。
A図から約10手後の局面のB図で、またも▲6九歩が受けの好手。
羽生の竜の横利きを二段目から外せば、自陣への脅威が緩和されます。△5八竜には6筋の歩の上に打った▲6八飛がまたも受けの好手でした。
そして終盤で、自玉の危機を救ったのが飛車の王手に対する▲4八歩の中合いでした。
ここで▲3八桂は△同飛成▲同玉△4六桂▲2八玉(▲4七玉は△5六金以下詰み)△3九角成▲1八玉△1七金以下詰みです。また▲1七玉も、△3九角成▲1六玉△2五金▲同玉△5五飛成以下詰み。しかし▲4八歩の中合いで△同飛成とさせて▲1七玉と逃げれば、竜が角筋の陰になって詰みません。
前期竜王戦最終局では、藤井が戦線から遠い筋の歩を取った手が竜王防衛の決め手になりました。今期竜王戦の今後の戦いも歩が陰の主役になるかもしれません。
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一局の間にこのような自陣歩の絶妙手が三手も現れるのは、なかなかないことだと思う。
A図以下は、△同飛成▲6八歩△5八桂成▲同金△6八角成▲同金△同竜▲3九金△4七金▲6九歩でB図。
B図からは△5八竜▲6八飛△同竜▲同歩△5八飛▲4一馬△同銀▲4九金打。
後手から5八にしか飛車を打てなくしておいて▲4九金打と飛車に当てながら受けるところが絶妙だ。
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C図の▲4八歩は次の一手のような鮮やかな手だが、A図の▲7八歩、B図の▲6九歩とも、次の一手の問題に出されても私は一生答えられないような手。
このような手を鑑賞できるところが、プロの将棋の醍醐味の一つだとつくづく感じる。