羽生世代の奨励会

将棋世界1984年3月号、銀遊子さん(片山良三さん)の「関東奨励会報告」より。

 佐藤康光君も強そう。14歳と若いし、関西から来ていきなり5勝1敗の好成績をとって、前の星と合わせてサッと1級に上がってしまったのには周囲もビックリだ。

 この人にも注目したい。

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将棋世界1984年7月号、銀遊子さん(片山良三さん)の「関東奨励会だより」より。

 天才羽生が復調してきた。昇段後イマイチの成績が続いて、本人ならずとも歯がゆい思いだったのだが、今月は級位者相手だったこともあって4戦全勝と大きく復活した。通算で5連勝。この人が動き出さないと面白くない。

 デビュー時は羽生以上に期待されていたのが先崎2級だが、アッという間に差をつけられて最近は影が薄くなった。「元天才」というありがたくないニックネームももらう始末。このところ久々に勝ち込んで、対豊川3級戦に昇級の一番を迎えた。

(中略)

 こちらの天才はまだ本調子ではないようだ。それでも6勝1敗はまだまだ有望。

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将棋世界1984年9月号、銀遊子さん(片山良三さん)の「関東奨励会だより」より。

二人の有望株

 鈴木純一、佐藤康光の二人が新たに有段者の仲間入りを果たした。鈴木は、佐伯七段門下で、同門の兄弟子中村修六段も折り紙をつける有望株。ここ一番でのモロさはあるようだが、常に安定した成績をあげていたことからも素質の良さがうかがえる。

 佐藤は、例の「花の57年12月入会組」のうちの一人。ついに出世頭羽生に並びかける者が現れたわけである。「康光粘り」と言えば仲間うちではすでに有名で、なんたって腰が重くて、負かすには骨の折れる相手という定評が出来つつある。近い機会にその指しぶりをお伝えしたい。

先崎、尾中1級昇級

「元天才」などと呼ばれて発奮したか、先崎が1級昇級を果たした。それも櫛田、荻原という力のある初段陣を連破してのものだけに価値は高い。上がった勢いで、次の例会でも3連勝をあげたのも立派。昇級するとつい気がゆるんで雑になってしまうことが多いのだが、先崎はその点でも、精神的にひとつ壁を乗り越えたのかも知れない。

 奨励会屈指の真面目人間尾中の1級昇級もうれしいニュースだ。

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将棋世界1984年10月号、銀遊子さん(片山良三さん)の「関東奨励会だより」より。

 佐藤(康)がいよいよ目立ってきた。同期の羽生が初段でもたついているうちについに並びかけ、上がってからは土つかずの5連勝と、一気に追い越す勢いだ。非常に勝負にカラいタイプであるらしく、対戦した者から「なりふりかまわず粘っこくやってこられる」というほぼ一致した感想を聞くことができる。まだ14歳という若さで、そういう指し回しができるというだけで、勝負師として豊かな天分がうかがえるではないか。また、楽しみな人が一人増えた。

 近々、佐藤-羽生戦がありそうだが、その時は必ず詳しくレポートしてお届けすることを約束する。乞うご期待。

 初段陣では、他に荒井、小池(裕)といったところの好調が目につくが、新鋭佐藤康光の活躍にややかすみがちだ。

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将棋世界1984年11月号、銀遊子さん(片山良三さん)の「関東奨励会だより」より。

 同期生 佐藤康光の入品に刺激されたか、再び羽生にエンジンがかかってきた。14勝5敗で堂々の二段昇段である。中学生棋士の誕生がいよいよ現実味を帯びてきて、胸ワクワクというファンの方も多いだろう。

(中略)

 昇段後も5連勝と星をのばして注目を集めた佐藤康だが、どうしたことか今月は1勝5敗と崩れて連続昇段は夢となってしまった。今月は彼の特集の予定だったのだが、これではおあずけも仕方がなかろう。しかし、大器であることは間違いのないところ。

(中略)

 森内、郷田がそろって1級昇級をはたした。このあたりはスクスク伸びているようである。これは全くの個人的な意見だが、今の関東奨励会ではこの2人と、羽生、佐藤康の4人が抜群に光って見える。あくまでも”順調に育てば”の条件付きではあるが、将来はタイトルをも狙える逸材であると、ここに予言しておく。読者の皆さんも、名前を覚えておかれて損はないはずだ。

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羽生善治名人の初段~二段、佐藤康光九段の2級~初段、郷田真隆王将と森内俊之九段と先崎学九段の2級~1級時代。

まさしく同世代間での切磋琢磨。

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「康光粘り」という言葉が面白い。

佐藤康光1級(当時)は関西から移ってきたばかり。

関西ならではの粘りの棋風が濃厚に出ていたのかもしれない。

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銀遊子さんの「将来はタイトルをも狙える逸材であると、ここに予言しておく。読者の皆さんも、名前を覚えておかれて損はないはずだ」。

昇級スピードが早いとはいえ、この当時にこのように断言するのは、非常に大胆なことだったと思う。

銀遊子さんの慧眼が光る。