将棋世界2004年7月号、河口俊彦七段(当時)の「新・対局日誌」より。
この日は、棋聖戦の準決勝など好取組が多い。それがあってか、午後になると控え室は賑やかになった。
そこへ島八段が顔を見せた。
私が「何かいい話があるかね」と声をかけると、「いや、ありませんね」と、7六歩、3四歩みたいな応酬があって、一拍おき、「あっ、そうそう、ちょっとだけいいことがありました。強豪を集めた研究会で、4勝3敗と勝ち越したんです」と自慢話をはじめた。
「そりゃたいしたもんだ」
「しかもですよ、最後に勝てば優勝だったんです。相手は佐藤康光君で、1勝5敗。そこでうっかり、最近の生活に問題があるみたいですね、と言ったのがまずかった。佐藤君を怒らせて本気を出されてしまいました」
テーブルの向こうで、久保八段対木村七段戦を調べていた佐藤棋聖がクスリとした。
軽薄な小生は、つい乗せられ「強豪が集まったというけど、そのメンバーはB級じゃないかね」と憎まれ口を叩いた。
メンバーは、佐藤棋聖、森下九段、藤井九段、島八段、鈴木八段、杉本六段、山崎五段、渡辺五段。この顔ぶれをB級というのはジョークだが、気が合った仲間が集ったという感じがする。2泊3日の研究会は、当然将棋の勉強はするが、温泉旅行の意味合いもあっただろう。2日目の夕食後は、大いに話がはずんだそうである。
もし、この研究会に、丸山九段、三浦八段、深浦八段が加わったとしたら、雰囲気が全然違ったはず。棋聖だって最初から気合を入れ、多分優勝したでしょうね。そう、念のため断っておくと、私生活云々は、結婚式の日取りまで決まったなど、仕合わせな生活を、将棋指し流に言ったもの。島八段は、そんな研究会の様子を書いてくれればよいのに。
なお、杉本君は初参加で、誘われて喜んだだろう。優勝したのは渡辺五段。彼いわく「最初に島先生と当たり、ボヤッとしていたら負かされました。2日目からは本気で指しました」。
(以下略)
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河口俊彦七段(当時)と島朗八段(当時)が上記の会話をしたのが2004年4月21日のこと。
この豪華なメンバーの2泊3日研究会旅行は、順位戦が終わった後の3月下旬か4月上旬に行われたのだろう。
研究会で優勝した渡辺明五段(当時)は、この年の暮に竜王位を獲得する。
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参加メンバーのうち、酒を飲まない(又は当時飲んでいなかった)のは、藤井猛九段、島朗八段、山崎隆之五段、渡辺明五段(段位は当時)と、非飲酒者の割合が高い。
2泊3日とはいえ、あるいは鈴木大介八段のような酒豪がいたとはいえ、将棋以外は、酒を飲んで温泉というイメージではなく、食事と温泉という雰囲気だったのだろう。
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突然、「最近の生活に問題があるみたいですね」と言われれば誰でもドキッとするものだが、棋士流の表現は面白い。
今度機会があったら使ってみよう、とはなかなか思えそうにない言葉であるには違いない。