加藤一二三王将(当時)と12本の蛍光灯

将棋世界1980年4月号、毎日新聞の井口昭夫さんの第29期王将戦〔加藤一二三王将-大山康晴十五世名人〕第3局~第4局「三対一、攻防戦たけなわ」より。

 加藤王将は到着後、対局室を丹念に検分した。とくに照明については注文がよくつく。少し暗いというので天井の蛍光灯を全部新品にとりかえた。20ワットが12本。筆者は取りかえが終わった所へ入っていった。皆が加藤王将の顔をみている。その感じでは一段と明るくなったという訳ではなさそうなのである。加藤王将は、

「とりかえて大分、違いますね、うん、確かに明るくなった、これでいいですよ」

 と一人で何度もうなずいた。12本を頭上でとりかえるのに奮戦した係の人は、ホッとした表情だった。

(以下略)

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滝の水を止めるのに比べればやや地味な感じはするが、それでも凄い。

人事を尽くして対局に備える。

対局時にマイナスになりそうな滝の音、止められそうな滝を止めてもらわなければベストを尽くしたとは言い難いのと同様、交換できる蛍光灯を交換してもらわなければベストを尽くしたとはいえない。

その結果、明るさが変わらなかったとしても、ベストを尽くした結果そうであることが確認できたわけなので、加藤一二三王将(当時)も安心する。

心の眼では明らかに明るく見えたのだと思う。