中村修八段(当時)「第2局と第3局の間で、二世が誕生する。そこで羽生王位は復活する」

将棋世界1997年11月号、高林譲司さんの第38期王位戦七番勝負第5局〔佐藤康光八段-羽生善治王位〕観戦記「決断の瞬間」より。

王位戦第5局。将棋世界1997年11月号より、撮影は弦巻勝さん。

王位戦第5局。将棋世界1997年11月号より、撮影は弦巻勝さん。

 羽生善治王位と佐藤康光八段。竜王戦で3期連続、ため息が出るような激闘を演じてくれた二人だ。今期王位戦七番勝負は一進一退、第7局までもつれこむことが十分に予想された。

 第1、2局で星を分け合った時は、それが確信に変わった。さっそく第6、7局が予定されていた対局場に「今期は99パーセントの確率でお世話になると思いますので、よろしく」と連絡したものだ。

 ところがそのあと、勝ち運から見放された佐藤八段、よもやの3連敗、思い返せば、空中戦の第3局を逆転で失ったことがすべてだったかもしれない。どうも勝負というやつ、流れが決まる決定的瞬間があるようで、今期は第3局がそれだったような気がしてならない。

 最終局となった第5局終了直後、佐藤八段は、「先手番で勝てなかったのが痛かった」とだけいった。口惜しさを胸にしまいこんで、淡々とした口調だった。

 佐藤八段にとり、今期の挑戦は自分の将棋に迷いながら、燃えないまま終わったという印象だ。おざなりな言葉ではなく、心から再挑戦に期待している。

 一方で、こういう見方もある。七番勝負に臨むにあたり、新聞は恒例の一ページ特集を組み、予想対談をする。今期は勝浦修九段と中村修八段に登場してもらった。

 羽生王位は竜王と名人、二つの大きなタイトルを立て続けに失った。対談のお二人は、羽生不調説を否定せず、

「ここでまた王位を失うと、ずるずるとすべてのタイトルを失うかもしれない。今期防衛戦はまさに正念場」

 と勝浦九段。

 同意しつつも、「しかし」と中村八段。

 いわく、

「第2局と第3局の間で、二世が誕生する。そこで羽生王位は復活する」

 第3局以降3連勝。まさにそうなったのだから驚きだ。

 長女のお嬢さんの誕生で、七冠全制覇以来のテレビのワイドショーと女性週刊誌を中心とした一連の取材攻勢は一応一段落。対局に専念できる環境が回復したことは羽生王位にとって大きかった。しかし何よりも、人の親となったことで、羽生王位が新たな充実期を迎えることになった。これが大きい。

 そういえば理恵さんとの婚約発表は一昨年の王位戦の真っ只中。今期は二世誕生で、王位戦は羽生さんの慶事に常に関わっている。明るい話題は、こちらまで心が豊かになる。主催者側としては、逆に羽生さんに「ありがとう」というべきなのかもしれない。

王位戦第5局。将棋世界1997年11月号より、撮影は弦巻勝さん。

(中略)

 △6四桂が急所をつく返し技で、後手勝勢だ。さらに△5五馬が安全策を兼ねつつ、ツナギ桂を見た継続手。

 そして△6一金(5図)と、いわゆる<友だちをなくす手>を披露し、先手に引導を渡した。これで後手玉は鉄壁だ。

 どこで勝ちになったかとの、局後恒例のインタビューに「△6一金と打って」と答えたのは、羽生王位の謙虚さだろう。

 ついに夏が終わる一瞬が来た。△5八銀を前に最後の1分を使い切って佐藤八段投了。午後6時57分だった。

 羽生王位は5連覇を達成した。今期から制定された<永世王位>獲得の瞬間でもあった。

 今シリーズ、勝敗を分けたのは明らかに踏み込みの差だった。佐藤八段は第3局で決めるべき時に身を引いて、勝利をのがした。

 羽生王位の本局、善悪を超越して△8五金(A図)のブッツケを決断。この瞬間、勝利の女神は羽生王位を応援しはじめたといえないだろうか。

防衛の翌朝。将棋世界1997年11月号より、撮影は弦巻勝さん。

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「羽生王位は竜王と名人、二つの大きなタイトルを立て続けに失った」

羽生善治九段は、竜王と名人を失って四冠。

四冠なのだから、とにかく凄いわけなのだが、約1年で七冠から四冠になったので、不調という見方が大勢を占めてくる。

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「第2局と第3局の間で、二世が誕生する。そこで羽生王位は復活する」

中村修八段(当時)の予言の言葉が格好いい。

そして、◯→●→二世誕生→◯→◯→◯(防衛)と、予言通りになるのだからドラマチックだ。

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「そういえば理恵さんとの婚約発表は一昨年の王位戦の真っ只中」

1995年の王位戦七番勝負、第3局と第4局の間のことだった。

羽生善治六冠「あっ、あいています」、郷田真隆五段「行きます」

 

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