将棋世界最新号の中原誠十六世名人へのインタビュー中に、升田幸三九段についての話がある。
「升田先生とは、対局数はそう多くありませんでしたが、十段戦リーグでえらいポカをやって、上機嫌にさせてしまったことが忘れられない思い出ですね。升田先生は感情が露骨に顔に出るタイプで、自分のほうが形勢有利と見れば、浪花節も出るし軽口もポンポン飛び出します」
今日は、升田九段を上機嫌にさせてしまった一局を見てみたい。
昭和44年4月に行われた対局だが、将棋世界昭和47年新年号付録「将棋千夜一夜」(全棋士が一人二頁で自慢の一手または大ポカなどを載せていた)で中原十六世名人は大ポカ篇として、この一局を取り上げている。
(先手は中原十六世名人)
出だしは、升田九段の英ちゃん流中飛車(5筋の歩を突かない)。
中原、玉頭位取り。升田、向飛車に転じて攻勢をかける。
駒組みの整備も頂点に達して、ここから開戦。この時点で中原十六世名人の読みに見落としがあった。
▲3五歩△2五桂▲2六飛と進む。
(▲3五歩を△同角は▲6六角)
中原十六世名人の読みは△2四歩▲2五桂△同歩▲2九飛。
その後、飛車を8九へ転回するというもの。しかし…
3三の桂が2五へ跳ぶことによって、2二の飛車に4四の角のヒモがつくことを、3七に桂が成られるまで中原十六世名人は気がつかなかった。
思ってもみなかった桂損。
以下、飛車を交換して玉頭から攻め込むが、上機嫌な升田九段の攻めが絶好調。
升田九段は、64手目から116手までの間、上機嫌だったことになる。