「井口昭夫 将棋観戦記選集(下)」を読む

6月28日の記事で紹介した、9月3日発刊の「井口昭夫将棋観戦記選集 下」を読んだ。

井口昭夫将棋観戦記選集 上と同様、盤上、盤外のバランス良く、読者が知りたいことを十二分に伝えている観戦記14作品だ。

井口昭夫さんの観戦記の素晴らしさについては、7月1日の記事(「井口昭夫 将棋観戦記選集(上)」を読む)でも書いたが、どの観戦記も、棋士の様子が活き活きと描かれており、指し手についても棋力の高くない人でも理解できるようなわかりやすい解説。

下巻では、大山康晴十五世名人の順位戦最後の対局や、谷川浩司竜王が羽生善治名人に勝って永世名人を獲得した一局など、歴史的な対局が盛り込まれている。

また、森内俊之八段、佐藤康光八段、村山聖八段など当時の若手棋士、花村元司九段、芹沢博文八段などの個性派も登場する。

私は1973年春から1987年前半までと、1990年から1995年前半まで将棋から遠ざかっていたので、その頃の空白を埋めてくれるような観戦記集でもある。

14作の中で個人的に最も好きな観戦記は巻頭の1986年名人戦、中原誠名人-大山康晴十五世名人戦。

升田幸三を書かせたら東公平の右に出る者なし、大山康晴を書かせたら井口昭夫の右に出る者なしだと思う。

大山十五世名人が永世名人になった時、大山名人の父が「康、その永世名人とやらを五回とれ」と言った話などは聞いているだけで嬉しくなる。

上巻に収録されている、第1回将棋ペンクラブ大賞観戦記部門大賞受賞作となった「1988年A級順位戦、米長邦雄九段-加藤一二三九段戦」の1年後に行われた1989年A級順位戦、米長邦雄九段-加藤一二三九段戦の観戦記も、受賞作と同様、非常にスリリングな展開。

第1回将棋ペンクラブ大賞贈呈式は1989年1月28日に行われているが、この対局は同じ月に行われているものと思われる。読んでのお楽しみ。

それ以外の観戦記も興味深いものが多い。

巻末の毎日新聞の山村英樹さんの「井口昭夫さんのこと」は、とても暖かい文章。