魔が差す 掉さす 将棋指す 

先日、DVD売り場で「必殺からくり人」のDVDを見つけた。

「必殺からくり人」は必殺シリーズの第8作目。1976年7月から3ヶ月間放送されていた。

川谷拓三が歌うエンディング曲「負犬の唄」(作詞:荒木一郎 作曲:平尾昌晃 編曲:竜崎孝路)が哀愁漂う超名曲。

それはともかく、DVDのジャケットにはオープニングナレーションの台詞が載っている。

雨が降ったら傘をさす 辛い話は胸をさす 娘十八、紅をさす 魔がさす掉さす将棋さす 世間の人は指をさす 許せぬ悪に とどめさす

脚本家の早坂暁氏の作で、「さす」でまとめられている。将棋も出てきている。

放送では、いかにも必殺シリーズ風のBGMとともに出演者が複数でこのオープニングナレーションを語る。

雨が降ったら傘をさす(山田五十鈴)、

辛い話は胸をさす(芦屋雁之助)、

娘十八、紅をさす(ジュディ・オング

魔がさす掉さす将棋さす(森田健作

世間の人は指をさす(緒形拳

許せぬ悪に(山田五十鈴)

とどめさす(緒形拳)

映像がとにかく格好いい。

「将棋さす」の部分を担当しているのは、現・千葉県知事である。

*****

それぞれの「さす」を漢字にしてみた。

傘を差す

胸を刺す

紅を注す

魔が差す

掉差す  

将棋指す

指を指す

止め刺す

今回調べてみて個人的に初めて知ったことだが、「掉差す」は、邪魔をするとか水を差すのようなネガティブな意味ではなく、「傾向に乗って勢いを増す行為をすること」。

船頭が川底に掉を差し込んで舟の速度を上げるイメージだ。

「情けは人のためならず」の正しい意味は20歳以前から知っていたが、「掉差す」の正しい意味は今まで知らなかった。

文化庁の平成18年度「国語に関する世論調査」の結果についてによると、

下記の慣用句等の意味を正しく答えられた人の割合は次のとおり。

(全国16歳以上の男女3,442人が回答)

役不足 40.3%

流れに棹(さお)さす 17.5%

気が置けない 42.4%

ぞっとしない 31.3%

やおら 40.5%

やはり「掉差す」は、難易度が高いようだ。

*****

必殺シリーズのオープニングナレーションの多くは、脚本家の早坂暁氏によるもの。

脚本もさることながら、オープニングナレーションの名人だと思う。

第1作『必殺仕掛人』 (作:早坂暁 語り:睦五郎)

晴らせぬ恨みを晴らし、許せぬ人でなしを消す。いずれも人知れず仕掛けて仕損じなし。人呼んで仕掛人。ただしこの稼業、江戸職業づくしにはのっていない。

第2作『必殺仕置人』 (作:早坂暁 語り:芥川隆行)

のさばる悪を何とする。天の裁きは待ってはおれぬ。この世の正義もあてにはならぬ。闇に裁いて仕置きする。南無阿弥陀仏。

第5作『必殺必中仕事屋稼業』 (作:早坂暁 語り:藤田まこと)

金に生きるは下品にすぎる、恋に生きるは切なすぎ、出世に生きるはくたびれる。とかくこの世は一天地六。命ぎりぎり勝負をかける。仕事はよろず引き受けましょう。大小遠近男女は問わず、委細面談・仕事屋稼業。

第7作『必殺仕業人』 (作:早坂暁 語り:ダウンタウンブギウギバンド・宇崎竜童)

あんた、この世をどう思う。どおってことねえか。あんたそれでも生きてんの。この世の川を見てごらんな。石が流れて木の葉が沈む。いけねえなあ、面白いかい。あんた死んだふりはよそうぜ。やっぱり木の葉はピラピラ流れて欲しいんだよ。石ころはジョボンと沈んでもらいてえんだよ。おい、あんた聞いてんの、聞いてんのかよ。あら、もう死んでやがら。はぁ~、菜っ葉ばかり食ってやがったからなあ。

第13作『必殺からくり人 富嶽百景殺し旅』 (作:早坂暁 語り:吉田日出子)

神や仏がいなさって、悪を罰して下さると、小さい時に聞きました。それは優しい慰めと、大きくなって知りました。やさしさ頼りに生きてはきたが、やさしさだけでは生きてはいけぬ。早く来てくれからくり人。