大滝秀治さんは「劇団民藝」の代表を務めているが、湯川博士さんの高校時代の同級生が「劇団民藝」で俳優をやっていた。
十年以上前のある日、湯川さんは同級生の俳優に誘われ、「劇団民藝」の演劇を観にいった。
劇が終了後、同級生の俳優(Pさん)は、
「おお、湯川、今日はよく来てくれたな。そうだ、お前、大滝先生に会ってみたいだろう。俺が紹介してやるよ」。
湯川さんとPさんは、大滝さんの楽屋へと向った。
「大滝先生、こいつ、俺の高校時代の同級生で湯川博士っていうんです。なんか将棋の文章を書いているらしいんですけれども」
大滝さんの目が大きく見開かれた。
「馬鹿者。湯川博士先生に対して”こいつ”とは何事だ。P、下がれ下がれ。湯川先生に失礼な。この方をどなたと心得る」
湯川さんは、この日まで大滝秀治さんに会ったことがなかった。
「湯川博士」、「将棋」というだけで、大滝さんは、近代将棋や週刊将棋などでよく名前を見る湯川博士さんと同一人物だということにすぐ気がついたらしかった。
Pさんは呆然としている。
「いつもお書きになられている文章を拝見しております。湯川先生、こちらへどうぞどうぞ」
大滝さんは、湯川さんの将棋の話を嬉しそうに聞いていた。
後日、湯川さんは大滝さんに駒をプレゼントしたりして、大いに喜ばれたという。
プロ棋士の名前を知っている人は多いが、将棋ライターや観戦記者の名前まで覚えている将棋ファンは、かなり熱心な将棋ファンに位置付けられる。
昨日の中井広恵女流六段の文章を見ても、湯川博士さんの話を聞いても、大滝秀治さん自身が、将棋ファンのドラマになりそうだ。