十六歳の羽生四段、二十二歳の羽生五冠

将棋マガジン1993年11月号、鈴木宏彦さんの「青年五冠王に聞く」より。

自宅キッチンにて。将棋マガジン同じ号より、撮影は弦巻勝さん。

　4－0。羽生－郷田の同期対決は羽生の圧勝に終わった。先の棋聖戦に続いて王位戦も制した羽生のタイトル数は、ついに五。大山康晴、中原誠以来、史上三人目の五冠王の誕生である。もちろん、二十二歳の五冠王は史上最年少記録。

　強い。あきれるほど強い。五冠王になった羽生は、なにを考え、なにを目指すのか。過去の記録を次々tと塗り替えていく驚異の若者に緊急インタビューを試みた。

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　八月三十日午前十一時半。東横線中目黒駅から徒歩三分という羽生竜王のマンションを訪問する。瀟洒な五階建てマンション三階の2LDKが青年五冠王の本拠地。昨年、棋王防衛の直後に購入したものだ。

　玄関を入って正面がリビングキッチン。左手の洋室が原稿書きやパソコン通信をする仕事部屋。右手が寝室兼研究会用の和室。リビングにはテレビとＣＤラジカセ。キッチンには冷蔵庫電気釜、トースター、電子レンジ。ベランダには洗濯機。何度かお邪魔しているが、いつもながらよく整理されている。

－いつもきれいにされていますね。

羽生　散らかっていたのを、慌てて片付けたんです。

－五冠王おめでとうございます。現在の心境は。

羽生　棋聖戦、王位戦とタイトル戦が続いて緊張していましたから、タイトルの数は意識していませんでした。いつの間にか増えていたという感じ。

－大山十五世名人、中原前名人に続く、史上三人目の五冠王ですね。

羽生　大山先生の場合は五分の五ですし、通算で千二百日以上でしょう。それに比べたら、まだまだです。でも史上三人目というのは、ちょっとびっくりしています。

－棋聖戦と王位戦を順番に振り返ってください。

羽生　棋聖戦は挑戦者になるまでが大変で、挑戦者になってからは気楽に指せました。王位戦の方は初めての同期対決ということもあって気合いが入っていました。

－3連勝しても気持ちが緩まなかった。

羽生　そうですね。調子に乗らせるとうるさい相手ですから（笑）。

（中略）

　ここから趣向を変え、昔のインタビューと同じ質問をぶつけてみた。まずは六年前の将棋世界、木屋太二氏のインタビューを再現。（　）内が当時の羽生の回答。当時の羽生は十六歳四段。プロデビューして一年足らず。公式戦十五連勝でガ然注目を浴び出した頃である。

－精神力は強い方？

羽生　将棋に関しては。大きな対局も経験したし、慣れもあります。（自分では、そうでもないと思っている）

－プレッシャーは。

羽生　あまり感じません。（大分かかる）

－棋風は。

羽生　前は攻めだったんですが、最近受けに重点を置くようになりました。特に後手番の時は。（よく分からない。七－三で攻めと思うが、受けの場合もある）

人と違うところは。

羽生　なんでも指すところ。（しいて言えば、ひどい将棋をひろうこと）

－コンディション作りは。

羽生　対局前日はゆっくり寝ていられないので、二日前に、ぐっすり眠るようにしています。（特にしない）

－対敵研究は。

羽生　しません。（する時もあるし、しない時もある。研究すると却って不安になることもあるので）

－データは。

羽生　興味深い将棋があれば盤に並べて研究します。（重視しない。自然な気持ちで盤に向かうように心掛けている）

－性格は。

羽生　激しい。小さい頃からずっと将棋をやっているから自然にそうなったのでしょう。（ソフトな方。ガヤガヤ騒ぐのはあまり好きじゃない）

－最近見た映画は。

羽生　ザ・ファーム。王位戦第四局の前日、時間があったので、福岡で。（中学の時から一度も見ていない）

－ガールフレンドは。

羽生　募集中です。（なし）

－趣味は。

羽生　読書と水泳。読書はなんでも。水泳は気が向けば、近くのスイミングクラブで一時間くらい。（これといってなし。野球のテレビ観戦くらい）

－研究会は。

羽生　一応三つの研究会に参加していますが、ここ一年くらいストップしています。（桜井研、室岡研、高徳研、秋山研の四つ）

－羽生善治流の将棋のつくり方は。

羽生　先手の時は自分の作戦。後手の時は相手について行く。（玉を固めてから攻めるタイプ。じっくり型。息の長い将棋。実戦タイプと思う）

－一番重視しているものは。

羽生　駒の勢い。（勢い、バランス）

－テレビは。

羽生　スポーツ、ニュース、将棋番組。（北斗の拳、めぞん一刻を時々）

－勝負運は強い方。

羽生　そうでしょうね。これで悪いと言ったら怒られる。（そうでもない）

－羽生善治にとって、将棋とは。

羽生　表現する方法ですね。いつでも楽しい。（夢を持てる仕事。大好きな将棋を緊張しながら指せることが嬉しい）