将棋マガジン1993年4月号、鈴木輝彦七段(当時)の「枕の将棋学’93」より。
今回の対談には佐藤康光君に来て貰った。特に彼には「将棋の魅力」について語ってもらいたいと思っていた。それが、彼なりの「何のため」の答えになっていると思うからだ。
佐藤君も森内君と同様このような棋界が少ないらしく、口が重い。森下君の十分の一くらいの感じだ。それでも、彼らしさが文面に出ていれば私としても嬉しいことだ。
感想戦以外の生の声を聞いたのは三年位前だろうか。一年間だけあった米長道場に佐藤君も来ていた。
女流や奨励会員も多い研究会だったが、組み合わせには米長先生も腐心していたようだ。
ある時、「佐藤君は誰と指したい」と米長先生が訊いたことがある。寡黙な彼もこの時だけは一言「自分よりも強い人がいいです」と言ったものだ。
実直だが、皆変な気分になった。それを兄貴分の室岡君が「佐藤君より強い人はプロでも少ないんですけど」とジョークのような一言で救ってくれた。
佐藤君にとっては素直な気持ちだったのだと思う。それが、奨励会に入る頃からの変わらぬ将棋を指す理由なのだろう。
別に名誉や地位を望んでいる訳ではないようだ。ただ、「強い人と指したい」と思っているだけなのだ。
少年のような純粋さと言えるかもしれない。先の室岡君の発言も真実を言っていて、彼でなくてはイヤミになってしまうところだ。
将棋に取り組む姿勢も、正に学究肌だと感じさせる。
(以下略)
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「自分よりも強い人がいいです」
その言葉が発せられた直後の非常に微妙な一瞬の静寂が想像できて、面白い。
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私が「誰と指したい?」と聞かれたら、「居飛車正統派の人」と答えると思う。
振り飛車党の私としては、振り飛車と居飛車が真っ向からぶつかる将棋を指したいし、それが楽しい。相振飛車は、結構疲れる。