林葉直子女流名人(当時)「私の愛する棋士達 南芳一棋王の巻」

将棋マガジン1991年5月号、林葉直子女流名人(当時)の「私の愛する棋士達 南芳一棋王の巻」より。

「南センセ! 一緒にディスコに行きましょーよ」

「……」

(アッケにとられている南先生)

「南センセーッ! みんなで行くんですよ、主催者の若手の方が案内してくれるから大丈夫ですよ」

「……いえ……」

(顔面をひきつらせながら、曖昧な笑みでゴマカそうとする南先生)

「行きましょうよ」

「……いぇいぇ……」

「えー、南先生行きましょうよ」

 数人の女流棋士と、南コールを大声で叫ぶと

「はい……」

 と首を横に振りながら、しぶしぶ了承してくださった……。

 ところで南先生のイメージとは、ファンの方にどういう風にとらえられているのか、私は疑問に思うことがある。

”地蔵流”無口な南芳一・・・と雑誌等では、こう書かれがちだ。

 確かに、将棋を指されている南先生はそうかもしれない。

 しかし、私の知っている南先生はそのイメージとはまったく違うものである。

 とにかく、面白くてやさしい。

 楽しい先生なのだ。これは、お会いする度に思わされる。

 雰囲気がイイのだ。

 時折見せてくださる少年のような笑顔……。

 顔をクシャクシャにして、口を大きく開けて笑うのだ。

 普段が物静かな先生だけにこれはインパクトが強い。

 私は、この笑顔を見せつけられたときドキッとした。

 南先生は……、けっして二枚目だとは言えない。(ごめんなさい、こんなこと書いたら二度とお食事一緒に行っていただけないかしら……)

 でもっ!

 南先生のさわやかな笑顔は、どんな二枚目よりもステキだと私は思う。

 さて、ディスコの話に戻ろう。

 将棋祭り主催者の若手男性一人に案内され、女流は私を含め三人、棋士は南先生お一人の計五人でディスコに行った。

 普段、カラオケスナックに行くというパターンが、あまりにも多いので、たまには違う場所がいいだろうということになった。

 首を横に振りながらも、私の強引な誘いに「はい」と答えて下さった南先生は……。

「ディスコは初めてですか?」

 ジャンジャンとロック調のうるさい曲がフロア中に響きわたっている。

 客の九割が若い女性ばかりで、ミニスカート、ボディコン姿で、踊っている。

「……はい、初めてですけど、スゴイですねぇ……」

 目を白黒させながら答える南先生をダンスフロアに……。

「別に手や足をてきとーに音楽にあわせて踊ればいいんですよ」

 私だって、初めてのときは、デクの棒のようにつっ立っていた、とか他の四人がいろんな注釈をした後、南先生は自然に踊りだした。

 確か……、私は他にも数人の男性棋士とご一緒(ディスコ)させていただいたことがあるのだが、誰よりも上手だった。

 そのことを南先生に伝えると、ケラケラと笑った。

 ディスコなんてとんでもない、と眉を寄せる方もいるだろうが、若い女の子にとっては、夜の遊び場所にちょうどよいのだ。

 二千円ポッキリぐらいで、食べ放題飲み放題、しかも踊って汗をかける。

 中には、少々変な女の子もいるがそれさえ気にしなければ、けっこう経済的なのである。

 しかし、ちょうど私達、計五人が円陣を組んだ格好で踊っていた、すぐ横に、いたのである。

 少々……、変な女性が……。

 変といっても、女性から見たらの話で、男性の立場からいえば、声をかけたくなる女、というだけの話なのだが……。

 身体にフィットしたボディコンシャスな装い、ひざ上30センチぐらいのミニスカートなのだ。

 女の私が見ても、すごいっ! と思うほどの女性だった。

 長いウェーブのかかった髪をかきあげながら、腰をふっての!?セクシーダンス。

 おまけに美人で、スタイル抜群。

 ダンスフロアで、適当に身体を動かしていた人々の視線は、すぐにその彼女に向けられた。

 円陣を組んで踊っていた私達計五人のうち案内役の男性の視線は、すぐにその女性のほうへ……。

「すごいねえ、彼女、踊りうまいし美人だし」

「すごいですよねぇ」

 私の相槌、棋士の接待!?そっちのけで、クギ付け状態の体勢。

 そして、当然その女性のほうへ南先生の視線も行ってると思いきや、まったく気付かない様子……。

「南先生、あの女性すごいですよね、すごい美人だし、スタイルいいし・・・」

 さすがに、その女性を指さすことはできないので、軽く目くばせした。

 すると、南先生はニコリと笑いながら、

「あ、ほんとだ……」

 フンフンと納得した様子……。

 その後、10分ぐらい踊って疲れたので休もうかと、テーブル席に移動した。

 そして、ビールを呑みながらみんなでその彼女の話をした。

 女は、ああじゃなきゃいけない、だの、おおいう女はしょうがないだの……。

 が……、その会話にキョトンとしながら南先生が言う。

「……そんな女性いましたか……」

「あれ? 南先生、さっき渡しが目くばせして教えた女性のことですよ」

「いやざ・・・私は、見てませんけど・・・」

「はぁ……?」

「奥のほうにいた女性じゃないんですか?」

 そのテーブルからダンスフロアが見渡せた。

 確かに、そのフロアの奥のほうで踊っている女の人がいる。

 その、セクシーダンスを見せつける女性の奥の方に、ロングスカートで何ら、変哲もなくただごく普通に踊っている女の子が……。

「南先生、ぜんぜん違う女の子を見てたんですね」

「そうなんですか?」

 驚いた顔で答える南先生を見て、そのとき同行した女流三人娘は、感激!

 華美な女性に魅かれるのは、フツーの男性。

 やっぱり、南先生は女性を見る目があると!?

 平凡な女の子の良さをパッとわかる、ということだ。

 その後、やっと手前で踊っている派手な女性を見て、

「なるほど……あれは、すごいですねぇ」と……。

 その場にいた五人みんな笑った。

 すべての言動が、自然でイヤミじゃなく、オチャメな南先生のこんなところが大好きである。

 ディスコに行ったこの話は約二年ほど前になるか。

 さすがの私も23歳という、お肌の曲がり角の年齢に近づくにつれ、行くこともなくなったが……。

(安心して下さいね、南センセイ)

 そして、ディスコなんかに無理に誘ったお詫びに!?と昨年の話になるが南先生宅に数人で押しかけ、私の手料理を食べていただいた。

(……と、言うよりも、我慢して食べてもらったような気がするが)

「おいしいですよ」

 と、ニコニコ、パクオアク食べて下さる南先生。

 ちょっとばかり材料不足と!? 作り方を!? 間違えたせいでか、そんなにおいしくなかったのに……。

 その後、私の手料理を南先生が食べたという話は、すぐに将棋連盟内に広まった。

「直子ちゃんのハンバーグおいしかったらしいネ」と……。

 確かに塩と砂糖を入れ間違えるようなことはしなかったから、食べられただろうが……、私に気を遣って下さって、ありがとうございます。

 普段から、南先生にはご迷惑をかけっぱなしと分かっているのだが、どうも私の性分は直りそうにもない。

 南先生って、なんだかほっとけない!?タイプなんですもの[E:heart01]

 しかし、ほっといてくれと言わんばかりの南先生の顔が浮かんでくるのは気のせいか!?

 そんなことはないはずだ!と思いたいが、不安になってきた私だ。私の愛する南先生! 私に愛想つかさないで下さいね。

〔直子の南芳一分析〕

特徴

 27歳、独身、大阪在住。

 女流棋士に南ファンが多い。

 純朴さは、棋界一ではないか。

 南先生のあったかいお人柄を慕う後輩は数多い。私もそのひとりです。

 笑顔がさわやかで笑い方も大胆。ガハハッと大口を開けるのが南流。

 わりと、人見知り!?をなさるタイプ(だと思うのですが)で仕事のときは、常に控え目でいらっしゃることが多い。

趣味

 ゲームはなんでもお好きのようでとくにトランプは相当の腕前。

 スポーツは何でも得意!?

 テニス、野球、ボウリング。

 中でも野球はピッチャーをなさるほどである。

口グセ

「いえいえ」 「ええ」

”え”を言葉の中で多く使う!?

 低音でやさしく、こう受け答えなさる南先生のマネは割とマネしやすい。

 一度?おためしあれ。

性格

 何事に対してもいい加減なことをなさらない。常に慎重。

(んー、それを考えただけでも私と一緒にいるとペースを崩されるのではないだろうか……)

 A型らしく几帳面。

 色紙にサインをなさるとき、一字一字丁寧に書かれるのは、南先生らしく温厚実直な性格が表れているのではないだろうか。

棋風

 粘り強く、腰の重い将棋。

 対局中は、終始正座を通される。

 対局中、気分転換に席をはずす棋士の先生方も多いが、南先生はほとんど席をはずされない。

 棋士の鏡である。

 中盤以降が!?難しい局面になるとある部分が赤くなるどう……だ。

(秘密!?をバラしてゴメンナサイ)

(以下略)

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この文章が書かれた1991年当時は、ジュリアナ東京ブームの頃。

・・・なのだが、ジュリアナ東京がオープンしたのは1991年5月15日のことなので、林葉さんたちが行ったのはそれ以前の世代のディスコ。

ジュリアナ扇子を振りながらボディコンの女性がお立ち台の上で踊っている光景は、もう少し先のことになる。

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私は女性が大好きだが、あの時代のワンレン・ボディコンだけは不思議と好きになれなかった。

見られることを前提とした下着、あるいは下着のラインを出さないためのTバック、というのも興醒めな感じがした。

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1990年代半ば、ランジェリーパブが流行っていた時期があった。

ランジェリーパブの仕組みは通常のキャバクラと全く同じで、女性がランジェリー姿である点だけが唯一の違い。

とはいえ、女性が身に着けていたのは下の写真のようなお洒落なランジェリーであり、下着っぽさは全くなかった。

私も付き合いで何度かランジェリーパブへ行くことがあった。

その店のママは、自衛隊出身のオカマの男性だった。

初夏の頃だったと思う。

「そろそろウチの店でも夏のイベントのこと考えなきゃいけないのよね。そうだ、女の子たちに浴衣を着てもらって浴衣まつりでもやってみようかしら」

ママがそう話すのを聞いて、「それはちょっと何かが変だ」と私は心の中で思った。