将棋ペンクラブ会報2002年春号、笹川進さんの「A級順位戦最終局マル秘レポート 三浦-加藤戦」より。
三浦弘行八段-加藤一二三九段戦
▲対局前の加藤九段はいつものセレモニーに忙しい。敷いてあった座布団を勢いよく襖の陰に放り投げる。隠れてのぞいていた私は足に直撃をくらった。
△去年、加藤が「電気ストーブを買ってきてほしい」と言い出して職員が慌てる局面があったが、今回はあらかじめ用意してあった。すると三浦八段が「ボクにもください」。控え室のヤジ馬連は、すわ、盤外乱闘かと色めき立つ。
▲もう1台のストーブが三浦の側に置かれたが、加藤はそれをズズーッと遠くに押しやってしまう。三浦は新四段のときに、加藤とエアコンのスイッチを消したりつけたりのバトルを演じた過去がある。ついに開戦か!?
△が、三浦は怒るどころか、その瞬間思わず噴き出したそうな。彼は単に寒がりなだけで、加藤を挑発しようとしたわけではない。結局、冷静にマイペースを守ったことが勝利につながったのかも。
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将棋ペンクラブ会報2002年春号、笹川進さんの「A級順位戦最終局マル秘レポート 谷川-青野戦、森下-佐藤戦」より。
▲午前10時前、谷川九段が控え室に顔をのぞかせた。ちょうど衛星放送の生中継中。田中九段が「谷川さんは、去年の順位戦で青野さんに負けたことを覚えているでしょうね」と解説し、谷川が苦笑する。
△定番となった和服姿の青野九段もちょくちょく控え室に姿を現す。三浦が自分にもストーブを注文したことを聞いて、「それは新手だね(笑)」。そういえば森内も朝一番に「今日は加藤さんのストーブはあるんですか」と聞いたそうな。
▲佐藤九段は角道を止めずに5四歩とつき6手目に3三角と上がった。角交換して3三同桂でどうなるのか。検討陣は盛り上がったが、堅実流の森下八段は何事もなかったかのように玉を移動。結局、普通の居飛車-振り飛車戦に。
△控え室では坊主頭の田中寅ジュニア、誠1級が人気者。「(加藤が)棒銀にしなかったら腹をかっさばく」と威勢がいい。顔だけでなく、性格までそっくり。
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2002年3月のA級順位戦最終局、A級1年目の三浦弘行八段とA級在籍通算37年の加藤一二三九段との対決。
お互いに負けると降級が決定する。
また、勝っても、羽生善治竜王-先崎学八段戦で先崎八段が負けない限り残留はできないという状況。
結果は、三浦八段が残留を決めることになる。
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将棋世界のこの号のグラビアのトップが、三浦-加藤戦。
畳に対して45度の傾きのクラウチングスタートの形で考える三浦弘行八段。
両膝をついたまま立ち上がり盤面を見下ろす加藤一二三九段。ネクタイは股下まで届く長さ。
中野伴水さんによる写真は迫力満点だ。
ストーブは写っていないので、窓側に置かれていたと考えられる。
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三浦八段の側に置かれたストーブをズズーッと遠くに押しやってしまう加藤一二三九段。
非常にユーモラスな光景だったことだろう。
噴き出した三浦八段、青野九段と森内八段の談話など、スクープ情報が満載だ。
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この対局は、三浦八段の四間飛車穴熊に対し、加藤一二三九段は棒銀を使わずに5三銀・6二銀の体勢で△7五歩からの早仕掛け。
中盤から優勢だった三浦八段が終盤に向けてじりじりと差を広げ、最後は加藤一二三九段の5五の玉に必至をかけて勝つ。
河口俊彦七段は、「都詰め(5五の地点で詰む)」よりも珍しい「都必至」だと書いている。