福崎文吾王座(当時)の嘆き

将棋世界1992年11月号、神吉宏充五段(当時)の「対局室25時 大阪」より。

 事務所をのぞくと、1枚の棋譜が何気なく置いてある。見ると9月5日の羽生-桐山の棋聖戦。勝負は桐山九段の勝ちと書いてある。横にいた福崎王座と声をそろえて「あ、羽生君負けてる!」。

 22連勝中だった羽生が負けるのは、はっきり言って事件である。桐山先生には申し訳ないが、桐山勝ちのことより羽生が負けたの方のインパクトが強い。さっそくその棋譜を並べ出した。内容は桐山のひねり飛車に羽生はなす術もなく完敗。

福崎「うーん、そうか」

神吉「何がそうかなん?」

福崎「いやな、一点の隙もない羽生先生やと思たけど、遂に弱点見つけたわ」

神吉「おおーそうか。王座戦で苦戦しとったけど、遂に見つけたか」

福崎「うん。羽生君はひねり飛車に弱いんや」

神吉「何か、大リーグボールみたいやなあ。ほんなら次の王座戦第2局はひねり飛車使うんかいな」

福崎「・・・その時になってみんとわからへん」

神吉「それより穴熊せえへんのんかいな。王座獲った時使たやんか。ファンの人も注目してるで」

福崎「そやなあ。追い込まれたら使てみよかなあ」

 というわけで王座戦の第3局の戦型はちょっぴり楽しみである。

(中略)

昼休み、棋士室で福崎と南に会った。週刊将棋を読んでいると、福崎が「マンガ見た?」と聞く。

「バトルさんの?さっき見たけど」

「それなあ・・・ボクの顔凄ないか。何かツボみたいな輪郭に顔の半分ぐらい唇があって、耳まで裂けてんねん。お化けみたいやで」

 それを聞いて南が大笑いし出した。福崎は南を横目に「そら南くんはええわな。お地蔵さんみたいやけど、ボクに比べたら全然ましや。マンガやから文句言われへんけど、それにしてもひどいわ」

 その後もしばらく南は笑いっぱなしであった。

(以下略)

——

この時、福崎文吾王座(当時)は羽生善治棋王(当時)の挑戦を受けていた。

第1局は羽生棋王の先手で相掛かりで羽生棋王の勝ち。

福崎王座のひねり飛車が出るかと思われた第2局は相矢倉に、福崎王座の穴熊が出るかと期待された第3局は羽生棋王のひねり飛車となり、第2局・第3局とも福崎王座が終盤の勝ち筋を逃し、羽生二冠の誕生となる。

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福崎王座を嘆かせたバトルロイヤル風間さんの似顔絵は次のとおり。

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福崎王座の左下に描かれているのは、当然のことながら南芳一九段。

バトルさんが理想とするのは、描かれた本人は「俺こんな顔じゃないよ」と思うけれど、周りの人達は「笑ってしまうほど似ている」と感じるような似顔絵だ。

自分でボケて、自分でつっこむ谷川浩司竜王(当時)

将棋世界1992年12月号、鹿野圭生女流1級(当時)のJT将棋日本シリーズ’92女流観戦記「札幌大会の打ち明け話」より。

 そしてバスに乗り換えて、大阪空港へ到着。後はホイホイのホイで、札幌行きの飛行機に乗り込めた。出不精(デブ性じゃないよ)な私だが、女流棋士になってからはだいぶ旅慣れてきている。

 オヤッ、前の席に座っているのは、浩ちゃんじゃなくて、谷川先生様々じゃぁあーりませんか。"こりゃどうも"じゃなくて”おはようございます”。ちょっといつもより元気がなさそう・・・。なるほどなるほど、おととい新婚旅行から、帰ってきたばかり。さもありなん。あ、左手の薬指にはキラリと輝く結婚指輪。よろしいなぁ、新婚は・・・(私ゃ、おじんか!!)。

 機内では、谷川先生持参の雑誌の中の漫画で大ウケ。だって、本名大山誠っていうスモウ取りが、美女に”マコリンって呼んでもいい?”なーんて迫られてんねんもん。キャイキャイ。

(中略)

 おやまぁ、もう、千歳空港。早いね、飛行機は。

 しかし、ここから札幌までがタクシーで1時間と聞いて、ウンザリ。道は限りなくまっすぐで130キロぐらい飛ばしてるのに、なんの違和感もない。ウーン、さすが北海道。

 車中では、谷川先生、またもや、おもしろいネタを提供して下さった。

 まずは野球の話で、阪神ファンを公言している谷川先生の所へ取材の話が舞い込んだ。阪神が優勝した場合のコメントである。”延々、1時間以上時間をさいてお話したものの、優勝しなかったら、私の苦労はどうなるんでしょう”と言っている。その夜、ヤクルトの優勝が決定した。かわいそうな谷川先生。お疲れ様でした。

 そして将棋の話がまたおもしろい。

 ”実は私、1週間駒を触ってないんですけど”とおっしゃるのだ。確かに、1週間前といえば結婚式の前日。そんな暇はなさそうだ。”ヘェー、駒持ったらポロッと落としたりして・・・”などと私がからかうと、”駒の並べ方忘れてたりして・・・ンな訳ないって・・・”と、自分でボケて、自分でつっこんでおられた。さすが、関西人。ヒューヒュー。しかも、その後、”しまった、ネタを提供してしもた”と反省までしちゃう所がごっついかわいい谷川先生である。

 長いと思っていた1時間だが、話のネタも尽きぬ内に、ホテルに到着である。

(以下略)

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自分でボケて自分でつっこむ芸は、明石家さんまさんが得意としている。

「自虐+それに対するつっこみ」が基本形。

森信雄五段(当時)と神吉宏充五段(当時)の会話でも、森信雄五段が自分でボケて自分でつっこんだ事例があるが、その文献がすぐには出てこないのが残念だ。

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この一人ボケツッコミは関西ならではの芸で、関東以北の日常会話で聞くことは稀なことだ。

ボケの後ワンテンポ置いて、聞き手にツッコミを想像させてから、そこからずれたツッコミをするような高等戦術もあるらしく、この道は奥が深い。

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三浦弘行九段の一人ボケツッコミに近い会話を聞いたことがある。

とても面白かった。

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三浦九段は将棋まつりなどで、兄弟子の藤井猛九段からいろいろといじられることが多い。

藤井九段からの藤井流のツッコミがあった時こそ、一人ボケツッコミをやるチャンス。

公開の場での三浦九段の一人ボケツッコミも聞いてみたいものだ。

      

戻るに戻れぬ対局室

将棋世界1992年7月号、神吉宏充五段(当時)の「対局室25時 大阪」より。

王座戦本戦準々決勝、桐山清澄九段-石田和雄九段戦でのこと。

 午後3時の棋士室。上で対局中の桐山九段が降りてきた。自分の手番で指して、下のモニターにはその将棋が映っているから、相手が指せばわかる。持ち時間も長いし、ちょっと気分転換に降りてきた様子。

 何をするとはなしにぼんやりとしている。

 モニターの手前には石田九段の頭が見え隠れしている。体を上下に揺すって考えているのがわかる。しかし・・・しばらくするとその姿が消えた。

 こんな時は隣の将棋を見ているか、手洗いに立つぐらいのもの。私はモニターから目をそらしたが、桐山が急に「おいおい」と叫んだ。画面に石田九段が現れたのだ。

 それだけでは驚くはずはないのだが、何とその登場した石田九段は、自分の座っている場所ではなく、桐山九段の座布団の上に座っていたのであった。これは誰でも驚く。

 そして相変わらず桐山九段の席で体を揺すって、頭が見え隠れしている。

 「局面に没頭するあまり、モニターに映っているのに気がついてはらへんのとちゃいますか」と私。しかし・・・形勢判断をするのに敵陣から見てみたい気はするが、相手の席に座ってまで見ているなんて、石田先生ならではのパフォーマンスやなあと思ったが、再び桐山九段が叫んだ。「ああ!」

 「今度は私の駒さわりだしたで。ほらほら、駒台の上・・・あ、盤面も一枚一枚置き直してはるわ。並べ方が悪かったんやろか」

 見ていてふと疑問が湧く。「これで石田先生が、桐山先生の駒動かして指したらどないなるんですかね」

 「ど、どないなるんやろ」と桐山。

 その答え(?)をあっさり言ってのけたのが阿部だった。

 「そんなん、桐山先生の反則負けでしょう」

 「ほ、ほんまかいな」と青ざめる桐山だが、今戻ると自分の席に石田が座っている。「そこは私の席・・・」と抗議しても代わってもらえなかったらどうしよう。戻るに戻れない桐山九段であった。

(以下略)

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石田和雄九段ならではの盤上没我の世界。

桐山清澄九段の駒を一つ一つ置き直している姿がとても印象的だ。

それに対する桐山九段の「並べ方が悪かったんやろか」も絶妙。

この対局は、桐山九段が勝っている。

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将棋世界1992年3月号、鈴木輝彦七段(当時)の「対局室25時 東京」より。

 一回りして記者室に顔を出すと佐藤康光君と対局している石田さんが、いつものように寝ころんでいた。

 「本業で稼がねばいかん」なんて言っている。誰かが800円近く下がったダウの事を話したのだ。

 石田さんは本当に職人気質の人で、まさしく”盤上没我”と自分で書く通りになる。

 昼休みには相手の座布団に座って考えている。ついでに灰皿も使う訳だが、それがイヤミにならない。これが許されるのは人徳がある石田さんだけだと思う。

 庶民的で格好をつけたりしない。これがファンにとってもたまらない魅力なのだろう。

 ある時、NHKの対局で煙草に火を点けようとしていた。普通なら、ダンヒルとかデュポン等でスパッと点けるのだろうが、手にしたのは百円ライターで、しかもガスが切れているのか点かない。何度か挑戦していた姿が石田さんらしくて可笑しかった。

 対局中も「弱い人がいなくなっちゃった」とボヤきまくっていたが、両者一分将棋の末に負かしてしまった。

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ライターが点かないのにも味がある石田九段。

対局前の控え室では吸えていたのか、あるいは控え室でもライターが既に点かなかったのか、興味深いところだ。

      

谷川浩司九段が生まれて初めてカラオケボックスへ行った時

将棋世界1992年5月号、谷川浩司竜王(当時)の第41期王将戦第5局(対南芳一王将戦)自戦記「△3二金の周辺」より。

 山形へ発つ前日、大阪の連盟で棋譜を並べていると、井上君と本間さんが相次いで、うつ向きながら控え室に入ってきた。

 NHK杯予選で、TVに出る直前に二人共負けてしまったのである。うさ晴らし、というわけで三人麻雀。

 他人のことは言えないが、この二人は初心者で、とにかく長い。それも、構想がないから一手ずつ長考する。仕方がないからこの二人と囲む時は、上達のために(というよりも、そうでもしないと時間を持て余すからなのだが)理牌せずに打つことにしている。

 それは良いとして井上君。白と発を本間さんい鳴かせておいて、立直をかけるのは無謀である。当然の如く中をつかんで、親の役満放銃だった。

 これではトップが取れない。慌てて座り直して、理牌もしたのだが、本間さんの勢いは止まらなかった。

 半荘4回で4時間もかかって、11時。4局連続ラスの井上君が何か言いたそうである。

 カラオケボックスだと言う。

 男三人でというのも冴えないが(井上君は幸福だから良いけどね)、スナックのように待たされることもないし、行ったことがないので興味もあった。

 これが結構盛り上がるのである。何よりも、周囲の目を気にしなくてすむ、というのが良い。

 歌の合間に、考えていたことを口に出してしまった。

 「△3二金と上がったら、南先生は振り飛車にするだろうか」。

 「やってみて下さいよ」。

 5分後、歌が上手くなったような錯覚に陥った。時計の針は1時を回っていた。

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この時の王将戦七番勝負で挑戦者の谷川浩司竜王(当時)は、「毎回違う戦型で指す」と自らに制約を与えていた。

第1局、四間飛車。第2局、相矢倉。第3局、相横歩取り。第4局、ひねり飛車。そして第5局後手番。

谷川竜王は「この他に、どんな戦法が残っていると言うのだろう、全く」と自戦記で嘆いている。

相掛かりに誘導したいが、南芳一王将(当時)が先手なら初手▲7六歩なので相掛かりにはなりづらい。

後手番として採用したい戦法には、角換わり腰掛銀やゴキゲン中飛車は含まれていない時代。

そのような状態での麻雀→カラオケボックスのコースだった。

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日本で初めてのカラオケボックスが誕生したのは1985年の岡山県。

国鉄が民営化を目指す中で、国際規格外の中古貨車が倉庫用として売りだされることとなった。

この時に、そのような貨物用のコンテナボックスを改造したものを郊外の幹線道路沿いに設置してカラオケで歌えるようにしたのがカラオケボックス1号店となった。

谷川竜王、井上慶太六段、本間博四段(タイトル、段位は当時)の三人がカラオケボックスへ行った1992年は、通信カラオケが開始された年でもある。

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関西の将棋界では、麻雀→カラオケボックス→麻雀、あるいはカラオケボックス→麻雀→カラオケボックス定跡があったという。

なかなか思いつかない手順だ。

    

竜王戦第2局対局場「新富良野プリンスホテル」

竜王戦第2局は北海道富良野市の「新富良野プリンスホテル」で行われる。→中継

新富良野プリンスホテルは、富良野在住の倉本聰さん脚本によるテレビドラマ(北の国から、優しい時間、風のガーデン」)でもおなじみのリゾートホテル。

今から10年前の12月、私は新富良野プリンスホテルに一人で二泊しており、私にとっては思い出の深いホテルだ。

泥の付いた一万円札など

〔ホテル内のレストランと昼食向きメニュー〕

昼食向きメニューは次の通り。

レストラン十勝

富良野オムカレー 1,000円
白いカレー 1,000円
鉄板ミートカツスパゲティ 1,000円
ステーキ丼 1,200円
豚丼 1,200円
海鮮三色丼 1,300円

メインダイニングルーム
ハンバーグステーキ  1,800円
スパゲッティ各種 1,200円〜
カレー各種 1,200円〜
サンドウィッチ各種 1,200円〜
ピラフ各種  1,350円〜

和食 からまつ

からまつ御膳 2,300円
北の味覚弁当 1,900円
天重 1,500円
北海ちらし丼 2,100円
ふらの野菜の温麺または涼麺セット 1,400円

〔昼食予想〕

富良野は米と豚肉と野菜の産地であることから、以前よりカレーライスに力を入れていたが、近年は地元産の野菜をたっぷり使用した富良野オムカレーが名物になっている。

「富良野産の米と野菜と卵を使う」「ご飯に旗を立てる」「ふらの牛乳をつけて1000円以内」などのルールが定められているという。

中継ブログには、レストラン十勝の富良野オムカレーの写真が掲載されている。

この時に、両対局者が何を注文したのかにもよるが、今回もカレーと肉系が主軸の展開になるものと予想される。

渡辺明竜王

一日目 肉丼

二日目 海鮮三色丼

森内俊之名人

一日目 ステーキ丼

二日目 ビーフカレー

チョコケーキ