将棋世界2004年3月号、毎日新聞の山村英樹記者の「担当記者が綴る 王将戦秘話」より。
現在、将棋界の新春の幕開けは、王将戦七番勝負から始まる。以前は棋聖戦が1年に2回開催され、いわゆる「冬の棋聖戦」は前年12月から1月にかけて開催され、王将戦第1局よりも棋聖戦第3局の方が新春早々だった。また、竜王戦七番勝負が「第8局」まで持ち越され、年を越えて開催されたこともあった。
担当記者にとっても、年末までに挑戦者が決まり、年頭から七番勝負が始まる棋戦は、新鮮な気分で迎えられる。対局する棋士にとってもおそらく似たような気分があるだろう。その意味でも、対局者が全力を尽くした棋譜、そこから生まれるドラマが王将戦の歴史に多く残っているのだろう。
(中略)
記者が初めて将棋担当となり、王将戦七番勝負の現地に居合わせたのは、1987年の第36期第1局。中村修王将に中原誠名人が挑戦した期で、場所は千葉県勝浦市の「行川アイランド」だった。
(中略)
王将戦の創設は1950年。毎日新聞社がずっと主催していたが、第27期からはスポーツニッポン新聞社が加わり、以降共催している。
タイトル戦をスポーツ紙が主催するのは初めてだったが、その斬新な紙面展開は将棋界に新風を吹き込んだ。速報に1ページの相当な部分を使い、食事のメニュー(これをすべて紹介するのも初めてだっただろう)を含むドキュメント、立会陣や記録係の「封じ手予想」、さらに指し掛けや昼食休憩の時に対局者の自室を訪れて対局途中での感想を聞き出すなど、現在も同紙が続けている工夫の数々があった。
スポーツ紙は独特の雰囲気があり、中村王将は「他のタイトル戦と違って、にぎやかなスポーツニッポンのスタッフの方々がいらっしゃり、お祭りのようで、楽しい気持ちで指せたのが印象的でした(「王将戦50年の歩み」より)と、当時のことを語っている。カメラマンの注文も独自のものがあり、有名な、対局盤の視点から対局者2人(第35期の中原-中村戦)が盤上を見つめている写真など、普通では撮れないアングルの写真もあった。もちろん両対局者に協力してもらい、盤の代わりにカメラマンが横になって撮らせてもらった写真なのだろうが、そのアイデアがすごい。
後に、対局前日に「対局者が明日からの健闘を誓い合って握手」の写真を注文したところ、両対局者ともすでに戦いが始まっているかのような気持ちだったのか握手してくれず、カメラマンが困っていたこともあったが、工夫を凝らした写真はいろいろとあり、温泉地の対局で勝った棋士が大風呂に入っている写真も何度かあった。
最近で印象に残るのは、第49期の北海道での対局で、勝った羽生善治王将にタラバガニを持ってもらって喜ぶ写真を撮ったこと、また第52期にも静岡県・浜松の対局とあって、羽生さんにウナギをつかんでもらったことなどがある。
「ウナギをつかもうと思ったのですが、簡単ではありません。タイトルも同じかと思いました」は昨年の王将就位式で羽生王将が語った言葉だが、こんなユニークな談話が生まれてくるところにも、王将戦独特の雰囲気が反映されている。
(つづく)
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対局者の自室を訪れて対局途中での感想を聞くなど、スポーツ紙ならではのアプローチがユニークな王将戦。
勝った棋士に様々な注文をつけ写真に撮るのも王将戦名物だ。
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ネットなどでは「勝者罰ゲーム」と呼ばれているスポニチの写真撮影。
どのようなものがあったか分類をしてみた。
1.地元の名産品を手に持ってニッコリ
2.地元のゆるキャラにからまれる
3.掛川茶PRレディに掛川茶を注いでもらう
4.忍者に囲まれる
5.弓の名手・那須与一の像の前で弓を引く格好をする。
6.対局場の従業員の方々から盛大な祝福を受ける
7.入浴シーン
8.各種のコスチュームを着せられる
9.その他(雪かき、鉄道員、指揮者など)
今日の第1局は掛川なので、掛川茶、忍者などが予想される。
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スポーツニッポンのサイトに掲載されている勝者写真。
渡辺明王将がいろいろな新手を繰り出しているようだ。
2007年
2009年
→大塚グループ宿泊施設で朝を迎えた羽生王将が鳴門の海をバックにオロナミンCで“元気ハツラツ”
→激闘から一夜明けた深浦康市王位に、白浜海人祭のマスコット・ウーミンが祝福に駆けつける
→蒲郡名物みかんワインを手に「あと1勝」ポーズをする深浦王位
→深浦王位を破り、地元名産のキンメダイを手に笑顔を見せる羽生王将
2010年
→王将戦第1局の激戦から一夜明けた久保棋王は、この勢いでポカリスエット同様に羽生王将を一気に飲み干す
→那珂川ほとりにある「鮎の碑」の前で、鮎の塩焼きを手に笑顔を見せる羽生善治王将
→対局後に掛川茶イメージレディの鈴木美花(左)さんから掛川茶を入れてもらう久保利明棋王
→一畑電鉄を舞台にした映画「レイルウェイズ」にちなみ列車の前でポーズを撮る久保棋王
→勝利した羽生王将は、パンダに扮した従業員から和歌山特産の梅酒を注いでもらい勝利の美酒を味わう
→新王将になり対局場「元湯陣屋」の客や従業員に祝福される久保棋王
2011年
→目標は将棋界の天下取り! 掛川城の前で武将と忍者に囲まれポーズをとる豊島将之六段
→熱戦を終えた久保王将は、地元・那珂川で獲れた子持ち鮎の塩焼きを堪能
→久保利明王将は地元・加古川での勝利から一夜明け「加古川観光大使」のたすきを胸に本紙に目を通す
2012年
→初戦を制した佐藤九段(左)は、自室に戻り掛川PRレディ青木芙美さんに勝利の美茶を入れてもらう
→燕尾服をまとった佐藤康光九段は、那須野が原ハーモニーホールの前で、駒をタクトに持ち替えリズムをとる
→地元・加古川で一矢報いた久保王将は、加古川のゆるキャラ・ウェルピーに祝福され、名物・かつめしを手に笑顔満開
→久保利明王将を破り、地元名産のキンメダイを手に笑顔の佐藤康光新王将
2013年
→渡辺竜王は、掛川茶PRレディ・青木芙美さんに「お疲れ様です」と扇子であおいでもらう
→モーニングコーヒーを飲みながら宿の足湯につかり疲れを癒す渡辺竜王
→熱戦を制した佐藤王将は大船渡つばき娘(前列右)や地元の女性からバレンタインチョコレートを贈られ笑顔
→初の王将位に王手をかけた渡辺竜王は松尾芭蕉に扮して俳句を考える
→王将位奪取から一夜明け、自転車に乗って笑顔を振りまく渡辺明・新王将
2014年
→徳川家康に扮した渡辺王将(左)と山内一豊に扮した羽生三冠は、掛川城を背に刀を上げる
→第1局を制した渡辺王将(中央)は、伊賀の忍者にお茶を入れてもらい祝福される
→那須与一にちなんで弓を手にした渡辺王将は2連勝に笑顔でVサイン
→勝って2勝2敗とした羽生3冠は、弘前市七夕会のメンバーと担ぎ太鼓を叩く
→王手をかけた渡辺王将は、元湯陣屋の名物「陣屋まんじゅう」で女将・宮崎さんらのねぎらいを受け笑顔を見せる
→露天風呂につかった渡辺王将。自身の勝利を報じたスポニチ本紙を手に笑顔
→激闘から一夜、「さんべ荘」にある七福神を前に三瓶そばを口にする羽生3冠
→初防衛を果たした渡辺王将は地元・河津名産のキンメダイを手にVサイン。紙吹雪が舞い満面の笑みを見せる