谷川浩司名人(当時)「歴史に刻まれるのは、その時のナンバーワンだけ。『惜しかったですね』の言葉は慰めに過ぎない」

将棋世界1989年11月号、谷川浩司名人(当時)の連載自戦記「復調のきっかけに」より。

 何げなく将棋手帳を見ていて、ひどく腹を立てたことが数ヵ月前にあった。

 プロ棋戦の記録の中の日本シリーズの項。59年度、第5回の優勝者は米長邦雄王将、そして準優勝者は加藤一二三九段―。

 ちょっと待って下さい。この時の準優勝は僕ですよ。

 これは調べなくても、日本シリーズは第5回から3年連続準優勝、という悔しい思いをしているので、特に記憶に残っているんですから。

 連盟に文句を言おうと思ったが、ふと考え直した。

 優勝者が間違っていたのなら問題だが、時が経てば、準優勝が誰だったか、などファンは関心を持たないものである。

 歴史に刻まれるのは、その時のナンバーワンだけ。「惜しかったですね」の言葉は慰めに過ぎない。

 まあでも、せっかくだから来年は直しておいて下さいね。

(以下略)

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1985年度の将棋手帳から5年間誤った記述だったのか、1989年度版将棋手帳だけが誤っていたのか、どちらかは分からないが、たしかに心穏やかではいられないような出来事だったろう。

谷川浩司名人(当時)は、この年にJT杯で初優勝を遂げる。

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この自戦記のことは、8年後の将棋世界の記事でも取り上げられている。

森内俊之八段(当時)「昨年も優勝されていますので、今年はぜひ私にゆずってください」