将棋世界1997年3月号、佐藤康光八段(当時)の第55期A級順位戦(対 米長邦雄九段)自戦記「勢いに勝った一局」より。
やや旧聞になるが、毎年年末の恒例行事として「駒音コンサート」が催されている。昨年で丁度10回目だった。将棋好きの音楽家の方々とのイベントだが私も2年振りに参加させて頂くこととなった。
演奏あり、歌あり、将棋ありといった楽しい企画だが今回で3回目になる私はバイオリンの演奏をさせて頂いている。
習い始めたのは将棋より早かったのだがいかんせんこの道に入ってからは全くやっていない。出場の度にホコリがかぶっていないかどうか楽器が心配な位なのである。これでは上達は望めないが、困るのが新年早々にファンの方から頂く年賀状である。「あなたは将棋は強いが演奏はどうも……」というのを数通頂く。下手なものは仕方がないが新年早々気分が悪い。よし! 今年こそと思い2ヵ月前より先生にレッスンを受けて準備万端。いざ本番に臨むこととなった。
いよいよ出番である。ステージに立つなり皆の視線が集まるのがわかる。とたんに頭が真っ白になり以下は訳の分からぬうちに終局。今回も同じ失敗を繰り返すこととなった。やはりアマゆえの悲しさである。やはり何事も普段が大事。
1月号の高橋和嬢の「継続は力なり」というお言葉を身にしみて感じるのみだ。
それから後日、テレビを見ていたらCMで似たシーンに出くわした。
それは広末涼子嬢扮するピアニストがコンクールで緊張してしまう場面で観客をじゃがいもに置きかえれば大丈夫というもの。次はその手を使ってみよう。
(以下略)
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「下手なものは仕方がないが新年早々気分が悪い。よし! 今年こそと思い2ヵ月前より先生にレッスンを受けて準備万端。いざ本番に臨むこととなった」
この負けず嫌いさが、まさに勝負師。
勝負師魂が燃え上がる。
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「今回も同じ失敗を繰り返すこととなった」
近代将棋1997年3月号のレポート「第10回駒音コンサート」には、「特にこれだけの音が出せるのは素晴らしいそうです」と書かれている。
また、この時の駒音コンサートが私が初めて行った駒音コンサートだったのだが、佐藤康光八段(当時)のバイオリン演奏が流暢で、あれほど将棋に打ち込みながらここまで上手に演奏ができるのかと驚いた記憶がある。
佐藤康光八段が目指していた目標が高かったとも考えられるが、決して失敗ではなかったと思う。
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「それは広末涼子嬢扮するピアニストがコンクールで緊張してしまう場面で観客をじゃがいもに置きかえれば大丈夫というもの」
観客をじゃがいもだと思い込むためには、相当なエネルギーと集中力が必要になるような感じがする。
プレゼンなどの場合もそうだが、ある程度緊張している時の方がうまくいくと言われている。
初めてのデートの時に緊張するからといって、相手をじゃがいもだと思ったとしたら、緊張からは解放されるかもしれないが、そもそもデートの楽しさや醍醐味が希薄になってしまう。
演奏をする時も、目の前が本物のじゃがいもだけだったなら、演奏をするモチベーションも下がってしまうことだろう。
過多でも過小でもない、最適な度数の緊張感を保てるような方法があれば、それが一番良いのだと思う。
もちろん、そのような方法は世の中に存在しないのかもしれないが。
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ちなみに、広末涼子さんが出演していたのはドコモのポケベルのCM。