羽生善治六冠(当時)のビッグ4と三浦弘行五段(当時)

将棋世界1995年8月号、三浦弘行五段(当時)の第66期棋聖戦第1局自戦記「残念な敗戦」より。

 棋聖戦第1局を見て頂きます。

 対戦相手の羽生先生とは練習将棋も指した事がなかったので、今回が初対局という事で、非常に楽しみでした。

 初めてのタイトル戦という事で、慣れない和服や、色々な事があり、大変だろうと師匠の西村八段を始め、多くの方が心配して下さったのですが、盤に向かえば将棋を指すだけだと心に決めたため、ほとんど対局中は気にならなかったので、第1局目としてはなかなか良い将棋が指せたと思います。

 前置きはこのくらいにして将棋に移りたいと思います。

(中略)

 3図最終手△6二金引が夕休直後の指し手で、まだ本格的な戦いが始まっていないのに羽生棋聖が残り1時間半近く、私も残り約1時間とタイトル戦第1局という事で、序中盤にかなり慎重に時間を使っていたのが分かります。

 3図で私は先手に仕掛けがあるとは思えなかったのですが、次の一手には、やや意表を突かれました。

三浦羽生1

3図以下の指し手
▲1五歩△同歩▲3五歩△5一角▲2四歩△同歩▲2六飛△3五歩▲4五歩△4七歩▲4六飛△3三角▲4四歩△同角▲4五桂(4図)

 羽生棋聖はいきなり▲1五歩と仕掛けて来ました。

 以下△同歩▲3五歩△5一角に飛車先を突き捨てた後じっと▲2六飛と浮き、△3五歩に▲4五歩として、次に▲4六銀を狙って来ました。

 先手も沢山歩損をしましたが、開戦前の歩の突き捨てをしただけという意味もあり、やや無理筋と思いますが、先手玉が非常に堅固で、後手も具体的に形勢を良くするのは大変です。そのため、私は焦りが出て来て、次に敗着ともいえる悪手を指してしまいます。

三浦羽生2

4図以下の指し手
△4八歩成▲同銀△6五歩▲5七銀△6六歩▲同角△同角▲同銀△3七角▲4九飛△6五歩▲7七銀△6四角成▲2三角△4二飛▲4四歩(5図)

 △4八歩成がひどい手で、歩切れに苦しんでいる先手に貴重な一歩を渡してしまいました。

 感想戦では△4八歩成に代えて△4三飛も検討されましたが、それも▲4七飛と歩を払われて、なかなかうまくいきませんでした。

 しかし△3一飛と指す手はあったと思います。

 以下▲4七飛△3六歩▲2七飛△3四飛▲4六銀△3七歩成でどうかと思います。

 本譜は捌きに苦しんでいる先手の角と銀を一遍に捌かせてしまい、いわゆるビッグ4と呼ばれる最強の穴熊を完成させてしまいました。

 しかし後手も△6四角成と形良く馬を引き付けて、なかなか負けない格好ではあります。

 しかし本譜の▲2三角から▲4四歩で飛車を押さえこまれて、やはり後手が少し苦しい様です。

 そこで5図から私は勝負手を放ちます。

三浦羽生3

5図以下の指し手
△6六歩▲同銀△8五歩▲6五歩△同桂▲7五歩△同歩▲6九飛△7四銀▲7六歩△8六歩▲同銀△7六歩▲7五歩△8七歩▲同金右△8五歩(6図)

 このままじっとしていては先手に▲3四角成から▲4三歩成などの筋があって、一遍に形勢を損ないます。

 先手玉は鉄壁ですが、少しでも嫌みを突かなければなりません。

 △6六歩がその第一弾で、以下▲同銀に△8五歩と取りあえず攻め合いの形になりました。

 しかし先手に▲6五歩と打たれたのが痛い手で、本譜の様に▲6九飛と急所に飛車を移動されてしまいました。

 6図最終手△8五歩まではこう進む所でしょう。

 ここで普通は▲9七銀と逃げておくのが安全で、それでも先手勝ちでしょうが、羽生棋聖は一気に局面を決めに来ました。

三浦羽生4

6図以下の指し手
▲7四歩△8六歩▲6五銀△8七歩成▲6四銀△8八と▲同玉△8六銀(7図)

 本譜の様な激しい駒の取り合いは、不利を自覚している私にとっては少なくとも勝負形になるので有り難いとしたものですが、やはり私の方に勝機はなかった様です。

(中略)

 本譜は△8六銀で、少しでも7五の地点に利かす詰めろを掛けようと思ったのですが、羽生棋聖にうまく8六の銀を抜かれてしまいました。

三浦羽生5

7図以下の指し手
▲7三歩成△同金左▲同銀成△同金▲6二飛成△7二金打▲7一角△8三玉▲8四歩△7四玉▲6五銀△7五玉▲7六銀△同玉▲6八桂△7五玉▲7六金△8四玉▲8五歩△8三玉▲8六金△6二金▲同角成△8七歩▲同金 (投了図)まで、139手で羽生棋聖の勝ち

 本譜の羽生棋聖の寄せは非常に巧い手でした。まず7三の地点で駒を清算してから飛車を成り込み▲7一角△8三玉に▲8四歩から▲6五銀~▲7六銀~▲6八桂~▲7六金と王手、王手でついに8六銀を抜かれてしまいました。

 投了図からは先手玉には詰みはなく、一方後手玉には▲8四銀△9二玉▲8二金以下の詰めろが掛かっているため、残念な敗戦となってしまいました。

 せっかく途中まで良く指せていたのにたった一手の悪手で大事な第1局を落としたのは非常に痛いのですが、気を取り直して、第2局以降頑張って行きたいと思います。

三浦羽生6

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三浦弘行九段が将棋世界に書いた初めての自戦記。

三浦弘行五段(当時)はこの時の棋聖戦五番勝負では0勝3敗で敗れてしまうが、翌年、再び挑戦して、羽生善治七冠から棋聖位を奪取することになる。

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ビッグ4は最強の囲いとも言われる穴熊を更に発展させた囲い方(5図の羽生六冠の囲い)。

手数がかかるので実戦でビッグ4が現れることは少ないと思うが、そういう意味でも本局は貴重な一戦と言えるだろう。

ビッグ4が丸裸になってしまうほどの激しい駒の取り合いが非常に印象的だ。

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ビッグ4と言うと、かなり昔のボウリングが大ブームだった頃の「美しきチャレンジャー」というTBS系のテレビドラマを思い出してしまう。

女性ボウラーが主人公のスポーツ根性ドラマで、ビッグ4(右端の2本と左端の2本が残った状態)をクリアする(スペアを取る)ための魔球を編み出すために猛練習を重ねるという内容だったと思う。

ほとんど現れる確率が低いビッグ4のために苦心をして魔球を編み出す、という展開に感情移入ができなくて、途中で見るのを止めた。

その魔球は、右端の2本のピンを倒したボールが急激に左に曲がって左端の2本のピンを倒すというものだったが、毎回その魔球を投げれば毎回ストライクを取れるじゃないかとも思った。

もちろん、その魔球を投げる時に腕に非常な負担がかかって何度も投げるとボウリング生命を短くしてしまうということはあったのかもしれないが。

とにかく、ビッグ4というと、途中で見るのを止めてしまったドラマのことを思い出す。

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そのドラマではビッグ4は普通の投げ方ではスペアを取るのが不可能という前提だったが、調べてみると、魔球を投げずにビッグ4でスペアを取っている映像を見つけた。

すごい。

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