中原誠十六世名人の「最も印象に残るタイトル戦」(6)

名人戦第6局が近づいてきたので、久々に1972年名人戦シリーズを。

中原誠十六世名人が「最も印象に残るタイトル戦」という1972年の名人戦の、第6局。先手が中原挑戦者、後手大山名人。

ここまで中原挑戦者からみて○●●○●の2勝3敗。

立会人は丸田八段、副立会人は二上八段、記録係が青野三段、観戦記は東公平氏。

中原新名人の将棋世界自戦記より。

「二勝三敗とカド番に追い込まれて、第六局を迎えた。本局を前にしての私の感じはこうであった。

カド番で気楽になったといっては変だが、とにかく今年はダメだと思った。内容的に見ても、第三局と第五局など、あっけないほどの短手数で敗れている。

やはり名人戦という意識が強すぎたように思う。第六局では、伸び伸びと思いきった将棋を指してみたいと考えていた。

振飛車に出たのも、その考えの現われである。居飛車作戦の欠乏といえなくもないが…とにかく棒銀戦法ばかりで三敗を喫したのは、攻め急ぎと工夫の足りなさからであったろうか。

大山名人と指す場合には、常に創意と工夫をもってのぞまなくてはと痛切に感じた次第である。」

中原挑戦者の開き直りが勝利をもたらせた一局。

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中原「自由に指してみようというわけだが、ヤケッパチだったといえるかもしれない」

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大山名人の強手△4五歩。

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▲9七角は△8八角を防ぎつつ5三を狙う苦心の一手。

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▲5五歩は封じ手。△同歩なら▲5四歩~▲7七桂の狙い。

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△7四歩を取ると△8六歩▲同角△7五歩と飛車を捕獲されてしまう。

石田流泣かせの一手。

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▲7七桂から決戦。先手が飛車を取られるのは覚悟の上。

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▲3一銀で逆転。▲3一銀の一手前△8九飛では、△6六飛▲6七歩△6四飛が正解だった。一手前の△8九飛が悪手ということになる。

東公平観戦記

「四分で中原▲3一銀。『全然気がつかなかった』と名人局後の感想。実に簡単な手の見落とし。大勝負に限ってこういう事が起る」

中原自戦記

「私の▲3一銀で、これまでの将棋の流れがいっぺんに変わったような気がする。事実、対局中には珍しく、大山名人に動揺の色がうかがえた」

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▲8二銀は痛打。

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以下、3五にいた馬が6二の銀を取って、117手で中原挑戦者の勝ち。