真部一男九段と酒

昨日11月24日は故・真部一男九段の命日。

今日は真部一男九段の飲みっぷりについて。

真部一男九段は、将棋世界1998年10月号「将棋論考」で、こう書いている。

「私の酒は終点がないのである。お開きとなるのが無性に寂しいので、深夜、もう12時をまわっていたろう、皆に『これから家で飲もう』と言い出したのである」

やはり、酒飲みの模範あるいは鏡と言っていいと思う。

代々木にある「DO」という店が真部九段の行きつけだった。

近代将棋2005年10月号、スカ太郎さんの「関東オモシロ日記」より。

(太字がスカ太郎さんの文)

この日、スカ太郎さんは順位戦の取材をしていた。

各局が佳境に入る午後11時頃、スカ太郎さんは将棋会館の2階にある自動販売機へコーヒーを買いに行く。

そこには、対局を終わって、電話でタクシーを呼んでいる真部八段(当時)の姿があった。

「スカ君、今日は取材かい?まだいなくちゃいけないの?」と真部八段に聞かれ、僕は「はい」と答えた。

そう答えてから2秒後に「ああ、これはもし僕がもう帰ってもいい状況ならいっしょに軽く飲みに行こうという誘いだったんだよな」ということに気がついた。

真部八段は、スカ太郎さんにとって子供の頃からの憧れの棋士。

その憧れの真部八段に間接的ながら飲みに誘われた自分が今ここにいる。そう考えているうちに2階から4階への階段を上がっている自分の足がフワフワと浮き出しそうになっているのが分かった。

順位戦の取材は次の機会でも構わなかったという事情もあり、スカ太郎さんは真部八段と飲みに行く決心をする。

4階で毎日新聞社の山村英樹さんに尋ねて真部八段-東七段戦の結果が真部八段の勝ちであることを確認し、オイラは階段をあわて気味に駆け下りた。真部八段が帰ってしまわないうちにと思ってあわてたのである。

真部八段はまだ2階のエレベータ横にある椅子席に座っており、電話で呼び出したタクシーが来るのを待ちながら勝負の余韻に浸っているようであった。

「先生、やっぱり祝盃を上げましょう」

そう言うと、真部八段は「もういいのか」みたいなことを言いながら「でも俺も最近酒が弱くなってなあ……今日は少しだけにしようなあ」みたいなことも言った。

この後、真部八段とスカ太郎さんは代々木の「DO」で飲む。

真部八段の奨励会時代の話やゴルフをやっていたころのエピソードなどを聞いているうちに、スカ太郎さんは感激の中、生ビールのおかわりを10杯以上。午前3時頃まで飲んだという。

「少しだけ」というのが午後11時過ぎから午前3時というのが微笑ましい。

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「○○さん、今日は仕事かい?まだいなくちゃいけないの?」

「もういいのか」 (優しい感じで)

「でも俺も最近酒が弱くなってなあ……今日は少しだけにしようなあ」

真部九段が言うから格好いいのだろうが、私もぜひ一度使ってみたい言葉だ。