石橋幸緒女流四段のブログに「焼きフグ」の写真が載っている。
私はフグを真面目に食べたのは数回しかないが、フグというと、この文章を思い出してしまう。
近代将棋1997年1月号、団鬼六さんの鬼六面白談義「フグの喰べ方教えます」より。
(太字が団鬼六さんの文)
中でも本物はトラフグとか本フグとかいわれている黒皮に白いブチの入ったもので、これは最高種である。その肝は猛毒を持っているが、その肝を酒に溶いてフグ刺しに塗って食べると、その美味たる事、心、高砂の処にさまようばかりにして、陶然と酔いを発して天地皆、果てしなく広がる心地となる。いささかオーバーな表現だが、これはこれを食した人間でなければわからない。
(中略)
ところで、トラフグの肝はどんな味がするかというと箸でつまんで喰ってみてもたいして美味とは思えないが紅葉オロシを混えたポン酢に酒に溶かした肝をまぶし、それをフグの皮につけたり、フグ刺しにつけたりして喰って最高になるもので、つまり皮や刺身を肝和えにするわけで、これが酒の肴として天下一の珍味となるのだ。不思議なくらい次から次にと酒がうまく飲めるのである。
(中略)
フグ皮にしてもフグ刺しにしても本来のさっぱりしたフグの味に微妙な濃厚さが加わって何とも形容がつかぬうまさになる。ただ、困るのはそのうまさの故で、いくらでも酒がすすむ事である。
(中略)
女将がフグチリを作り出しているのを見ながら私は自分の舌が痺れ出してきたのを感じ出していた。これはフグ毒によるもので、これには馴れているから驚かないが、特にその夜は何だか唇の周辺が、麻痺して来たような感じがする。虫歯を抜く時、歯医者に麻酔を打たれた感じで、下顎の感覚が遠ざかっていく感じだが、これは決して悪い気分のものではなく、気持ちよく酔って桃色の雲に乗かっていくような何ともいえぬ爽快さなのだ。
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団さんは、知り合いの非合法な店でフグを食べたということだ。
それにしても、フグには興味のない私までも、フグ刺しの肝和えを食べてみたくなるような文章だ。