加藤一二三九段の棒銀(2)

昨日の続きで、将棋世界1998年1月号、河口俊彦七段の「新・対局日誌」より。

A級順位戦、加藤一二三九段の棒銀と羽生善治四冠の振飛車の戦い。

(太字は河口俊彦七段の文章)

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昨日の図から、▲3四歩△同金▲3五歩△3三金▲3七銀△3四歩。

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そして、▲3六銀△3五歩▲同銀△3四歩▲2六銀△7四歩▲2八飛△5二銀。

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▲3五歩、▲3六銀の態勢を作りたいのに、結局は銀が2六へ戻ってしまう。

「棒銀が捌けない」を絵に描いた状態になってしまった。

ここから、加藤一二三九段は非常手段に出る。

▲3七銀△3五歩▲3六歩△同歩▲同銀△3四金▲2四歩△同歩▲3五歩△同金▲2四飛。

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3筋でゴチャゴチャやっているうちに△5二銀と固められ、もう我慢がならぬと、▲2四歩から▲3五歩と打ち、銀を取らせて▲2四飛とさばいたが、これでは先手不利だ。
この応酬を控室で見ていた先崎君が
「あるとき、加藤先生が、どうして居飛車穴熊にするの?と言うんです。ボクが、堅いからです、と答えたら、棒銀がいい戦法なのに、どうして指さないのですか、と言うんです。答えように困ったな」
と話してくれた。
以下、3六金▲2一飛成△3一歩▲9七角△6三銀左▲6六歩△5五歩▲3七歩△5六歩▲3六歩△5七歩成▲同金右△4五歩▲7七桂△3六飛▲3七歩△2六飛。
気持ちの良い振飛車の捌き。以下、羽生四冠の完勝となった。
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天才加藤一二三の▲6六角▲8八角の逡巡は何を意味するのか。もしかしたら、あと一番勝って残留を決定させたい、の思いが強くあったのではないだろうか。三勝した時点で、加藤降級の率は非常に低い。残る六局のうち一局勝てばよいのだし、全部負けたとしても助かりそうだ。
棋士心理とは不思議なもので、危険がほんの僅かであるほど、ふるえが大きい。
四連敗の高橋九段は、もう自分が勝つしかないのだから、かえってふるえない、という事もある。
加藤九段の心理は、挑戦と残留のはざ間で揺れ動いていた。それが図(昨日のはじめの図)以下の手順だったろう。
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私の振飛車は棒銀に対して勝率が悪いし、やってこられるのもイヤだ。
今度やられた時には、この羽生四冠の手順を試してみたいと思っている。