大滝秀治さんと将棋(前編)

数々のドラマや映画、CM、舞台で活躍している名俳優の大滝秀治さん。

趣味は将棋だ。

今日から2日間、大滝秀治さんにまつわるエピソードを。

近代将棋1997年3月号、中井広恵女流六段「棋士たちのトレンディドラマ」より。

多分、最初で最後の経験であろう。女流棋士役で出演させていただいたドラマが二月十日に放映される。

これは、私の結婚式の仲人をしていただいた、作家の斉藤栄さん原作の「洞爺札幌・王将追跡旅行」(TBS系)というサスペンスドラマ。

俳優の大滝秀治さん主演の「退職刑事の事件帳」シリーズで、女流名将戦という二日制のタイトル戦を舞台に事件がおこる。

大滝さんは大の将棋ファンで、昨年の冬の札幌東急将棋まつりにふらっと遊びにいらして、客席で熱心に対局を観戦されていたほど。

北海道へは「北の国から」の撮影でよく行かれるそうで、その時に脚本家の倉本聰さんともよく将棋を指されるそうだ。

女流名将というタイトルを持つ西條の役に北海道出身の久津1級。私は彼女に挑戦する中林広美女流五段。何となく名前も似ているでしょ。

(中略)

撮影の合間に大滝さんにいろいろなお話を伺った。大滝さんは今まで一度もプロ棋士とは指したことがないという。

何度か雑誌やイベントの企画はあったようなのだが、全部お断りになったそうだ。

理由をお聞きしたところ、大滝さんの将棋はプロ棋士の将棋とは質が違うから指してもらうのは、失礼に当たるとおっしゃるのだ。まるで、ふたりっ子の銀じいのセリフのよう。

「私の将棋は駒がしらけちゃうんですよ。だから、思い通りに動いてくれないんです」

笑いながらそうおっしゃったのが妙に印象に残っている。これは、役者の大滝さんならではの表現の仕方だ。

「将棋指しはプロ中のプロですよ。それは役者とは比べものになりません。私は舞台で時々血をだして、それを見たお客さんが声をあげるということがありますけど、そんなのは全然たいしたことじゃないんです。でも棋士が対局中に鼻血なんか出してるところを見ると、しびれてしまいますね」

それを伺っただけでも、本当に将棋がお好きなんだなぁというのがわかるが、でも演技に入った大滝さんはそれまでと別人のように厳しい顔に。自分が満足いかない演技は何度もやり直したり、納得のいかない台詞は言えないと、議論する姿は、やはりプロだ。

大滝秀治さんのプロフィールの趣味欄には「将棋」とだけしか書かれていない。それほど一途に将棋が好きなのだ。

ところで、中井女流六段のエッセイのほうは、「納得のいかない台詞は言えない」がキーとなってオチをむかえる。

棋士では他に、谷川竜王と藤森奈津子二段が大盤解説のシーンで出演する。谷川先生は、竜王戦が五局で終わったので、急きょ出演できることになったという。

ふたりっ子にも出演されたので、演技の方は折り紙つき?

藤森さんが、

「タクシーの中で、出演者の中西良太さんとご一緒だったんだけど、中井さんて綺麗な方ですか?って聞かれたのよ。ええ、綺麗ですよって答えておいたんだけど、台本の中に中西さんが『中林の方が好みのタイプだ』という台詞が出てくるでしょ。俳優さんは納得のいかない台詞は言えないみたいだから確認してきたのよ、きっと」

と教えてくれた。

実際の顔を見て、放送で台詞が変わってしまっているのではないかとひそかに恐れている私だ。

(以下略)

—–

今後、LPSAの中井代表と藤森理事が並んで立っている写真などを私が見るようなことがあった時、上記の会話を思い出して思わず私は笑ってしまうのではないかと、ひそかに感じている。