広島の親分(4章-3)

苦手な食べ物
困ったことになった。
実は私は中華丼も苦手なのである。
あの表面積の広い薄切りの人参と、同じく表面積の広い薄切り筍、もそもそした鶉の卵、ドロッとしたあんかけ、今までの人生で、決して好んで食べるものではなかった。
 私は、子供の頃から、野菜と生魚系が嫌いだった。
これは、私の父が保健所に勤務していることが大きく影響している。
保健所の職員の家から食中毒者を出したりするわけにはいかないので、私は小さい頃から食事の前には必ず手を洗わされていた。
どぎつい人工着色料や人工甘味料が入ったお菓子もNGだった。
このようなすり込みが子供の頃から行われてきたので、"野菜をきちんと洗ってから食べないと、寄生虫の卵が野菜に残っていて、それが体に入ると寄生虫が体に宿ってしまう"という衛生啓蒙映画を見せられたとき、そんなことなら野菜を食べなければいいんだと思ったのだった。
熱を通しても、熱を通した寄生虫の卵も食べることになるので気持ちが悪い。
幸か不幸か、私の口には野菜の味や香りが合わなかったので、子供の頃から根っからの野菜嫌いになっていった。
 大人になってからは、野菜嫌いは多少緩和されたが、人参や里芋など、関わりを持ちたくない野菜も多かった。
 しかし、ここは高木さんの庵。出されたものを完食しなければ、一宿一飯の義理を欠いてしまう。
 やや不安な気持ちになりながら、高木さんと湯川さんの対局を見ていた。