10年前の将棋界の一番長い日(降級編)

昨日に引き続き、近代将棋2001年5月号、笹川進さんのA級順位戦最終局密着レポート「将棋界の一番長い日」より。

笹川さんは血圧が高いのに、チーズに塩をかけて食べていた。

現在も、バリバリお元気だ。

0時10分

日付が変わって3月3日午前0時10分、田中寅彦九段が駒台に手を置いて、羽生善治五冠に投了の意志を伝えた。

田中の耳が朱に染まっている。すでに一時間以上も前に加藤が勝っていたので、田中は勝ち負けにかかわらず陥落が決まっていた。いわば、消化試合である。打ち上げの席で思い切って田中に、「加藤さんが勝ったことを知っていましたか」聞いた。すると田中は、「知りません。羽生さんに勝ちたい一心だったからね」と、思いもかけず厳しい表情で答えた。

(中略)

田中-羽生の感想戦の途中で特別対局室を抜け出すと、テレビカメラが、先崎学八段-島朗八段戦が行われている「雲鶴」の前の廊下でひっそりと待機していた。まるで屍肉に群がる禿鷲のように…。むろんこっちとて同じこと。なにしろ負けた方が降級するのだ。命懸けの一局を見逃す手はない。

先崎-島戦は、対局開始から異様な雰囲気だった。先崎が初手▲2六歩と指したあと、島が一向に指す気配がない。10分後、ようやく△3四歩が指されたが、早くも、「きょう最後まで残るのはここだね」との声があがった。

(中略)

午後0時38分、島投了と同時に対局室に入ると、二人は、さっきまでのむき出しの闘志がウソのように、和やかに互いの読みを披露しあっていた。それはラグビーのノーサイドのあと、健闘を讃え合うシーンを思わせた。が、内心はどうだったろう。おそらく島はまだ、降級したことを知らなかったと思う。二人は、そうすれば辛い現実が消えるとでもいうように、熱に浮かされたように感想戦を続けた。

午前1時35分、1時間におよぶ感想戦が終わった。ひとつ上の階ですでに打ち上げが始まっている。

谷川が喜びを表に出すこともなく、静かに飲んでいる。

さっきまでハイな状態に見えた先崎の顔が蒼白だ。ビールに口をつけ、「飲めないよ。気が狂いそうだ」と、つぶやく。

「いくら飲んでも酔わないんだよね」と、青野が同調する。

田中は、「加藤さんのA級復帰の記録(4回)を更新する」と、相変わらず威勢がいいが、時折フッと目がうつろになり、言葉が途切れる。

やがて一人ずつ部屋をあとにし、最後に田中が、「僕がいると皆さん帰れないんですね」と、気をつかって引き上げたのが午前3時40分。かくて長い長い一日が終わった。

(以下略)

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やはり、とてつもなく厳しい勝負の世界。

今年のA級順位戦最終局、どのようなドラマが生まれるのか。

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