女流棋士酒豪列伝

将棋世界2003年8月号、巻頭コラム「一手啓上 第8回 中井広恵」より。

「この後、お食事でもいかがですか?」仕事が終わると、必ずといっていいほどお誘いをいただく。あるいは、既に一席設けて下さっている事も多い。

 この”お食事でも・・・”というフレーズは、女性に対する気遣いで、男同士なら「軽く一杯」といくところ、いきなりは失礼だからというマナー。礼に始まり礼に終わる。

 お店へ入り、とりあえずビールで乾杯。「お酒は結構いける口ですか?」 そして、ほとんどの女流棋士が「いえ、そんなには・・・」と、ニコニコしながら答える。

 定跡化された手順だが、でも多くの人がこのハメ手ともいえる笑顔に騙されてしまうのだ。男性のウィークポイント。女流棋士を甘く見てはいけない。

 妹弟子のO庭1級は、仕事先で貰った一升瓶が東京につく頃にはカラになるという(どうやら本当らしい)。今まで、数々の腕自慢達が挑んでは、ことごとく敗れている。

 U川1級もかなりの実力者。昨年、都城で郷田九段と杯をかわし、翌朝二日酔いで遅れてきた彼に対し、ケロッとした顔をしていた。K野初段は、ビール戦法以外は何でもこい。N沢四段は、独身時代”夜の蝶”と呼ばれたほど。F戸二段もA級八段以上だし、新妻T橋二段は、ワインなら詰みまで研究している。私はというと、嫌いではないが初段程度で足元にも及ばない。男性とも互角以上に戦う彼女達。さあ、しっかり覚悟して勝負を挑むべし!

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O庭1級は、大庭美樹女流初段。

U川1級は、松尾香織女流初段。(旧姓:上川)

K野初段は、鹿野圭生女流二段。

N沢四段は、長沢千和子女流四段。

F戸二段は、船戸陽子女流二段。

T橋二段は、高橋和女流三段。

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酒が強い郷田真隆九段(当時)を二日酔いにさせてしまった上川香織女流1級(当時)。

酒豪であるとともに、進め上手なのだと思う。

2008年の将棋ペンクラブ大賞贈呈式二次会。

焼酎のボトルを入れてお湯割りを作ろうという時のこと。

私が数個のグラスに焼酎を注ぐ。私は酒を多めに入れる傾向があり、この時も透明なグラスの五分の二ほどに焼酎を入れた。それらのグラスにお湯を入れたのは松尾香織女流初段、

ところが松尾初段がお湯を入れてもグラスは五分の三ほどにしかならない。周りの人が呆然としていると、松尾女流初段は「あれ、お湯入れ過ぎましたか?」

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1998年頃だったか。

船戸陽子女流二段、早稲田の学生だったO君、私、と3人で池尻大橋で飲んだ。

とても楽しい飲み会だったせいか、3~4時間でバーボンのボトルが2本が空いた。

船戸女流二段は飲んだ後も平然としていた。

中井広恵女流六段の”A級八段以上”という表現は非常に的確だ。