近代将棋1999年1月号、故・池崎和記さんの「普段着の棋士たち 関西編」より。
A級順位戦の対局(相手は谷川竜王)で大阪に来ていた森下八段とホテルのレストランで夕食。ステーキ食べ放題という特別メニューだ(森下さんは肉が大好きです)。
二百グラムくらいのステーキが出てきたので、とてもお代わりはできないな、と思っていたら、森下さんは二回もお代わりした(ライスも同様に)。すごい食欲である。私は遠慮して一回にしたが、これでも食べ過ぎかもしれない。
(以下略)
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将棋世界1998年12月号、森下卓八段(当時)の自戦記「七年ぶりの王将リーグ」より。
二年前も立会人として、ロサンゼルスでお世話になった。特にロサンゼルス支部の方々の御好意は忘れられない。支部長さんの御自宅で夕食会を開いて下さり、そのときのステーキがあまりにも美味しかったので、ついつい二枚頂いたのだが、あとで二枚平らげたのは貴方だけですといわれて、恐縮した。
(以下略)
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以前も取り上げたことだが、森下卓九段は2005年の読売新聞のインタビューで、肉との関わりについて述べている。
一緒に住んでいたお祖母さんが、対局のある日の朝食にいつもステーキとトンカツを用意した。「テキ(敵)にカツ(勝つ)」という験担ぎから。
→「焼き肉」 森下卓さん
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牛肉派と豚肉派に分けるとすれば私は豚肉派だが、ステーキ、しゃぶしゃぶ、すきやき、焼肉の分野においては、牛肉は豚肉に優ると感じている。
個人的に、今までで最高に美味しかったステーキは、ニューヨークの「スミス・アンド・ウォーレンスキー」というステーキ店で食べた、リブロースステーキ。
20年ほど前のことになる。あの味は忘れられない。
あまりにも量が多過ぎて四分の一ほど残してしまったが、今でもあの残り四分の一には未練がある。
アメリカのステーキは美味しくないと言われているけれども、全くそのようなことはないと実感した。
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「スミス・アンド・ウォーレンスキー」へ行く数年前のこと。
逆に、アメリカのステーキは美味しくないと実感させられたのが、日本のアメリカ大使館。(現在はそうかどうかわからない)。
仕事で、後輩から頼まれてアメリカ大使館へ同行した。
打ち合わせが終わって、日本人の担当者が、「食堂で昼食を食べていきませんか」。
アメリカ大使館の食堂など普通では入れないので、非常に嬉しかった。
その日は週に一度のスペシャルデーで、ステーキ定食が900円位で出される時だった。
三人ともステーキ定食を頼んだ。ステーキは150gくらいの感じ。
大使館の担当者は、「こうやって食べるんですよ」と言って、ステーキにソースとケチャップをかけはじめた。
「何もそんなことをしなくても・・・」と思い、私は何もかけずに食べ始めた。
ところがこれが、とても美味しくない。
固くて筋が多くて味がしない。
思わず、私もソースだけかけて食べたが、美味しくない。
ケチャップも足してみたが、美味しくない。
ソースとケチャップをおかずにライスを食べているようなものだった。
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最近不思議に思うのは、ソースのこと。
とんかつにはソースをかけるが、ポークソテーにはかけない。
メンチカツにソースをかけるが、ハンバーグにはかけない。
コロッケにソースをかけるが、茹でたジャガイモにはかけない。
それぞれ、衣のついた料理にはソースをかけるが、衣の中の具だけの場合にはソースをかけない(ソースが合わない)。
乱暴に言えば、メンチカツはハンバーグに衣を覆ったような料理だ。
メンチカツとソースの相性は抜群だが、一般的にハンバーグにソースはかけない。
ソースが不思議なのか衣が不思議なのか。
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いつの頃からか、私は料理にソースや醤油をかけなくなった。
唯一かける場合があったとすれば、とんかつの時のソースくらい。
メンチカツは何もかけなくても美味しいし、コロッケも同様。
ただし、タルタルソースだけは別格で、コロッケやフライはもちろんのこと、とんかつにつけても絶品になる。
今はなくなってしまったが、学生時代の新宿に4種類のソースを用意するとんかつ屋があった。
重厚なソース、ウスターソース風ソース、タルタルソース風ソース、赤みがかったタルタルソース風ソースの4種類。
試してみて、タルタルソース風ソースが一番という結論になった。
それ以来のタルタルソース派だ。
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玉子も不思議な存在だ。
目玉焼きを食べる時には、醤油派とソース派とケチャップ派と塩派などに分かれるという。
私は醤油派だ。
ところが玉子焼きになると、状況は一変する。
私は東北の生まれなので、玉子焼きは甘いものという認識だった。
ところが東京へ出てきて、甘くない玉子焼きを経験することになる。
それはそれで良いのだが、居酒屋などで、出てきた出汁巻き玉子に醤油をかけてしまう人がいる。
自分の皿に取ってからかければいいのにと、いつも思う。
目玉焼きでは醤油派の私も、さすがに玉子焼きに醤油をかけて食べたいとは思わない。
そのまま食べたい派だ。
同じ原料なのに、ここまで変化をとげる料理も珍しい。
料理は奥深いと思う。