藤井猛三段(当時)玉を取られた一局

将棋世界2002年7月号、藤井猛九段の「四段昇段の一局 システムの原点」より。

〔玉は取られたが・・・〕

 いよいよ三段リーグ開幕。いきなり連敗。相手が振り飛車党とは言え、居飛車連採は早計だったか。真剣勝負の場から遠ざかっていたのが痛かったか。次回からは得意の振り飛車で行こうと反省。

(中略)

 1期目は12勝6敗。始めの連敗がひびいて上がれなかったが、次期につながる自信になった。

 しかし、2期目の初戦、事件が起こる。

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 図は終盤戦。△8一玉以下、私の勝ちのはずだった。ところが△4九飛▲7一桂成―。

「王様って取ってもいいんだよねぇ?」

 誰に確認するともない近ちゃんの声と同時に、「あ~、そっかー!!!!」と叫んだ・・・。

 そんなこともあり、前半は5勝3敗と振るわない成績。しかし、たまたま引っ越したのと、年が明けたのとで、いい気分転換になったのか、そこから4連勝。山場と思っていた深浦戦を迎える。

 相手は用意周到な研究家。戦法選択に悩んだ末、中飛車穴熊は危険と読み、一夜漬けだが、四間飛車穴熊で勝負に行った。予想通り激戦となり、

(中略)

 この勝利で一気に波に乗り、後半戦は全勝。四段への切符を手に入れた。目標通り、20歳での昇段だった。

〔プロである限り〕

 ここ一番には必ず勝つ―この頃と今とでは、将棋の内容も考え方も随分変わったが、この決心だけは持ち続けている。決心をしたからと言ってその通りになるわけではない。初めは漠然とした図々しい決心だった。決心を可能にするのは自信だ。奨励会を通して分かったことだ。そして、その自信をもたらすのは何か。すべては自分の中にある。

 私は自分を信じて研究を続ける。プロである限りずっと。

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王手放置は反則負けのようなイメージがしないが、ルール上は反則負けとなる。

A級順位戦でも過去に、王手放置が起きたことがある。

大野源一八段-塚田正夫九段戦。

塚田九段には降級の目があった。

終盤、大野八段が勝勢の局面で塚田九段が王手をかけた。

大野「なんだい、こんな王手したってしょうがないじゃないか。王さん引けば投げの一手なんだあー」

と話した途端に、

「大野先生、ここから一分将棋です」の声。

大野八段は「えっ、もう時間か」と言うなり、塚田九段に王手をかけた。

塚田九段は、目にも止まらぬ速さで大野八段の玉を取り上げ、その手を高くかざして、

塚田「大野くん、悪いけどこれ、もらっとくよ」

大野「なにするんやっ!」

塚田「ぼく、いま苦しいんだ」

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非常に優勢な場合に、王手放置のリスクが高まるようだ。