博多の高橋道雄八段(当時)

将棋世界1990年1月号、青島たつひこさん(鈴木宏彦さん)の「駒ゴマスクランブル」より。

 竜王戦(島朗竜王-羽生善治六段)第3局の取材で福岡に行ってきた。公開対局で行われた第1局のときにも感じたことだが、今期の竜王戦は今までのタイトル戦とは全然違うなーというのが、その第一印象である。

 違う点はいろいろあるが、要するに、①対局者がとにかく若い、②毎局、NHKの衛星放送が対局の模様を中継する。急所はこの二点。

 この第3局はニューオータニ博多という博多一でかいホテルの茶室で行われたのだが、衛星放送用のカメラを入れるために、対局は床の間を横にらみする形で行われることになった。

(中略)

 両対局者の他、対局場に集まった棋士は広津九段(立ち会い)、高橋八段(副立ち会い)、林葉女流王将(博多在住)、谷川名人(敵情視察)、小林八段(NHK解説)、神吉五段(NHK解説及び、漫談)の8人。それぞれの棋士の博多での行動を簡単に説明すると……。

 広津九段。九段は福岡出身だから、ここでは各方面に顔が利く。立ち会い以外にも一行の代表格として、あいさつその他に大忙し。

 高橋八段。立会人は初めてということで最初はやや緊張気味。前夜祭では、「立ち会いで来るようじゃ情けないんですよね」。一日目夜には「立ち会いより対局者のほうがいいってことがよーく分かりました」。二日目は「もう立ち会いは……」どうやら初めての立ち会いにはだいぶ懲りた様子。

 二日目の夜、高橋八段は衛星放送のEさんや読売のOさんに誘われ、中洲で食事したあと、さらにある店に誘われたらしいが「そこは宗教上の理由で行けません」と断ってきたそうだ。

「宗教上の理由で・・・」というのは最近将棋連盟内ではやっている言葉だが、特に深い意味があるわけではない。「宗教上」を、「家庭上の事情で」と置き換えれば、高橋八段が誘われたお店の種類もお分かりでしょう。

(つづく)

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高橋道雄九段は最後の十段。

同じ号の高橋道雄八段(当時)の第3局観戦記「心はすでに今期にあらず」には次のように書かれている。

 本局。初めてタイトル戦の立会人を勤めさせて頂いた。身近に最高峰の将棋が勉強出来るし、一度やってみたかったのだで、依頼を受けた際は快く承諾。

 結果、全ての面で対局者の良さを再認識させられた。

 ところで、この審判として同行するのはどういう事なのかというと、選手として出場出来ないという意味を、反面含んでいる。

 盤の前に座れず、横からしか見守る事しか許されない。現役の棋士として、不本意この上ない。

 すでに来期、各組の予選の組み合わせが発表されている。

 もう心は今期にあらず。

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中洲は九州一の歓楽街で、長さ約1km✕横幅約200mの細長い地形。

ビジネスマンの間では、国内出張地として札幌と福岡の人気が圧倒的に高いとされている。

中洲には2度ほど行ったことがあるが、本当に賑やかな場所だった。

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中洲にはあらゆる種類の店があり、結婚して2年目の高橋道雄八段が誘われた店の業種が気になるところだが、EさんもOさんも「飲む・打つ・買う」の中では圧倒的に「飲む」のタイプなので、キャバクラに誘われたと見るのが正しいのかもしれない。