将棋世界1990年9月号、中村修七段(当時)の「プロのテクニック」より。
(先)塚田八段-屋敷五段戦。
塚田八段邸で行われた研究会からの取材です。
図の局面は、先手の必勝形です。
いろいろな勝ちがありそうなだけに、これが逆転するとは思いませんでした。
1図以下の指し手
▲4五桂△6七銀打▲8七玉△6四桂▲7七金△7六金▲同金△同銀成▲9八玉△9七歩▲8九玉△8八歩▲7九玉△5四銀▲同歩△7八歩▲6九玉△5七桂 (2図)
研究会に対する考え方は二通りに分かれる。あくまで公式戦の練習台として勝ち負けにこだわらないタイプと、やはり実戦で負けぐせをつけてはいけないと全力を出し切るタイプに。二人は前者のタイプらしい。確かに公式戦ほどの執念は感じられなかった。なお隣では羽生竜王と森下六段の感想戦も行われていて、これが「ほう、お父さんはそう来ますか」などと冗談混じりでうるさいの何の。おかげでこちらの感想が聞き取りにくくて参った。感想戦は予想通り?の展開となり、一人捲立てる塚田八段に対して、得意の相槌で応える屋敷五段。
塚田「(図から)▲6四香だったね、▲6四桂でもいいのかな」
屋敷「や、桂馬でもええ、自信がなかったんですけど」
塚田「ああ、△6一玉に金入っといて(▲6三金の意)プレッシャーかけるんだ、ああそれでいいんだ一枚入んないからいいのか」
屋敷「ええ」
塚田「そうだよ、桂ってのはひどいんだよ。一枚もらっても詰まないんだよね」
屋敷「えっ、ええ」
塚田八段は図からの▲4五桂を悔やんでいる。正解は▲6四香か、▲6四桂△6一玉▲6三金だった。屋敷五段の△6四桂が急所の一打。以下△5四銀とタイミング良く桂を取り、2図は簡単な詰みである。塚田八段の”一枚もらってうんぬん”は、ちょっとした錯覚で実際は詰む。次の屋敷五段の反応には多少の動揺が含まれている。
時刻は7時過ぎ、私の「腹減った」という呟きが、感想戦終了の合図となった。
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今日は、研究会(塚田研)での屋敷伸之五段(当時)。
当時の屋敷五段は、「忍者流」や「お化け屋敷」と呼ばれていたが、現代なら「相槌王子」という愛称になっていたかもしれない。
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羽生善治竜王(当時)と森下卓六段(当時)の研究会での感想戦。
AB型同士の二人。
「ほう、お父さんはそう来ますか」など、冗談混じりでうるさいほどだったとは意外な一面だ。
私もAB型だ。
感想戦で、「ほう、お父さんはそう来ますか」を一度使ってみたいと思う。