将棋マガジン1993年9月号、故・団鬼六さんの「オニの五番勝負 第2番 郷田真隆王位の巻」より。
さて、飛車落ち五番勝負、第2局目であるが、最初にいいにくい事を先にいわせて頂く。
無念なるかな。私はこの一戦に敗れた。こうして書いていると、何だか今まで郷田王位を若手の中では最高の美男子なんてほめた事さえ腹が立ってくるのだが、負け惜しみととられても仕方がないけれど、本当はこの将棋、私が勝っていたのである。ああ、あの時、伊藤能さえ顔をのぞかせなかったら、私は▲4八桂と自陣に桂を打って郷田王位の蒼ずんだ美貌を更に蒼ずませてやったものを、と残念でならない。
(中略)
軽く打ち上げをやろうって事になって郷田王位、伊藤能四段、編集部の萩山さん達と一緒に連盟の近くを廻ったが、まだ、夕方には間があって寿司屋も小料理屋も「準備中」の看板を出している。ぐるぐると店を探して廻る私の足どりは敗戦のために重かった。結局、おばちゃま族の団体で賑わっているレストランに入った。ビールで乾杯してから私は早速、負け惜しみを愚痴っぽく並べ始めた。編集部の萩山さんが紙とエンピツを用意してくれて、何か、郷田王位にインタビューするような事はありませんか、と私にいった。私がビールを何本も空けて伊藤四段をしきりにいびり出したので見るに見かねたらしい。 そうだ、これは原稿に書かねばならないのだと思い出し、私はH郷田王位の前に座り直した。
「郷田センセイ、あなたは童貞ですか」
そういった瞬間、ま、ま、と萩山さんが私のコップにあわて気味にビールを注ぎ出した。それで、こういう棋界のアイドルスターに対して私は非常に失礼な質問を発した事に気づいた。いささかうろたえて次に発した質問がまた、
「あなた、裏ビデオって見た事ありますか」
といったもので、また、萩山さんが、ま、ま、といって私のコップにビールを注ぎ足した。しかし、別に気を遣う事もなさそうだ。郷田棋王は、はい、あります、とはっきり答えてくれるではないか。
「女性を口説いた事がありますか」
「あの、口説くとは?」
「女性を誘惑したか、という事で、あなたなら、したか、ではなく、誘惑されたか、になるのかもしれませんが」
「はあ、両方ともあります」
えらい、と私は思った。あなにやし、えおとこを、もつまり立派な現代青年で男が女を好きになるという生物学的現象を心得ているのだ。将棋以外、何も興味がないというロボット仕立てになっているのではなかった。
(以下略)
—–
郷田真隆棋王は、昔から男らしい性格だ。
団鬼六さんの質問にも真正面から答える。
そこがまた、たまらなく格好良いし、華がある。
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2週間前の土曜日、札幌在住の将棋ペンクラブ会員であるHさんとお会いした。
Hさんとはtwitterで知り合った仲。
Hさんが6歳になる将棋が大好きなお嬢さんと一緒に東京へ旅行に来られると知り、それなら一緒に飲みましょうということになったのだった。
飲む話が決まるかどうかの頃、郷田真隆棋王が将棋連盟道場で指導対局をするという発表があった。
Hさんは郷田棋王の大ファン。
そして、指導対局の日程は、まさにHさんが東京に来ている時のことだった。
Hさんはお嬢さんの指導対局として、申し込み開始日の朝一に将棋連盟道場に電話をして、予約をゲットした。
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2013年1月19日。
初めてお会いするHさんとの待ち合わせ場所は将棋連盟道場。
お互いに顔は知らない。
Hさんとお嬢さんは、ものすごく顔が似ているという。
私の顔は、羽生善治三冠や石坂浩二の若い頃のような雰囲気と伝えてある。
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Hさんが申し込んだ指導対局の開始時刻は14:00頃。
私は13:15頃、将棋会館に到着。
タバコを吸ってから道場に入ろうと思い、将棋会館玄関前の喫煙所でタバコに火をつける。
いかにも将棋が好きそうな男性、親子連れ、女性など、いろいろな人が出入りしている。
そうしているうちに、可愛い娘さんを連れている女性が目の前を通った。
二人は本当にそっくりな顔をしている。
絶対にHさんだと確信したが、タバコを吸いながらの初対面というのも味が悪いと思い、その場では声をかけなかった。
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13:30。
道場に入ったらHさんにご挨拶するつもりだったが、お嬢さんが既に小学生の男の子と手合いがついて対局をしていてHさんがそれを観戦していたので、挨拶は落ち着いてからにしようと思った。
郷田棋王の指導対局は始まっており、三面指し。ややカジュアルな服装なのが新鮮だ。
私は将棋を指して待つことに。
将棋連盟道場で指すのはほぼ20年ぶりだ。
三段で申告。
1局目は四段の中学生の男の子と。
途中まで優勢だったが、竜を只で取られてしまうという錯覚があり、私の負け。
休憩をとってHさんに声をかけるタイミングを見計らったのだが、お嬢さんが対局・Hさんが観戦中だったので2局目を指すことにする。
2局目は二段の若い男性と。危ない局面が続いたが勝ち。
Hさんのお嬢さんは郷田棋王の指導対局を受けており、Hさんは熱心に見ている。
声をかけるのは指導対局終了後だ。
3局目。五段の男性と香落ち戦。私には珍しく手厚い受け将棋で勝ち。この勝利は嬉しかった。
Hさんのお嬢さんの指導対局は続いている。
私も近づいて観戦。
郷田棋王がお嬢さんと指す時は、笑みをこらえているような表情。好感度が200%ちかくアップするような表情だ。
間もなく郷田棋王は投了した。
「お強いですねー」
郷田棋王はニコニコしながらお嬢さんをほめる。
Hさんは郷田棋王にお願いして、郷田棋王とお嬢さんの記念写真を撮る。
郷田棋王は身を乗り出してお嬢さんの顔の隣に。
Hさん親子の宝物になりそうな写真だ。
そして、ようやく私はHさんにご挨拶。
「おめでとうございます」
Hさんは気風の良い道産子で、ドラマ「北の国から」に登場する主婦役という雰囲気。
この後、Hさん親子、Hさんとtwitter仲間のOさん、Kさん、アカシヤ書店の星野さん、バトルロイヤル風間さんと神保町で楽しく飲んだ。
Oさんはやはり郷田棋王の大ファン。2時間ドラマの探偵事務所に勤める明るい美人秘書という雰囲気。
Kさんは、連続ドラマに出てくる温厚かつ信頼感溢れる名門企業の広報室長という雰囲気。
この夜は、HさんとOさんの郷田棋王トークで盛り上がる。
楽しい一日だった。