将棋世界1993年1月号、池田弘志さんの「郷田王位がゆく!! 第3回 新道場は魚屋さんの二階」より。
郷田真隆王位の父、克己さん(三段)は、まだ3歳の長男真隆くんに将棋を教え、(おおげさに言えば)王位の今日をあらしめた名伯楽である。その名伯楽が長男の王位就位式を機に、
「どうだ、王位を1年お預かりしている折も折り、お父さんと平手で記念対局を指してくれないか」と要望されたという。
で、息子の返事はというと、
「筋が悪くなるから、嫌だ」と首を振った。
父の悲願はまだ成就されていない。
(以下略)
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非常に男らしい気風を持つ郷田真隆棋王。
郷田棋王に「男らしさ」と将棋を教えたのがお父様の克己さんだ。
克己さんは、2007年2月1日、郷田九段(当時)が森内俊之名人への挑戦を決めたA級順位戦の対局があった日に亡くなっている。
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克己さんは、升田幸三と長嶋茂雄に心酔していた。
郷田棋王は、子供の頃から二人の偉大さを聞かされていたのだろう。
2年前のブログ記事でも書いたが、克己さんは、子供時代の郷田棋王と自宅で将棋を指したり、一緒に道場へ行ったりしていた。当時の道場関係者は郷田少年を「マーくん」と呼んで可愛がっていたいう。
今はなくなってしまったが、池袋にあった酒場「スマイル」に克己さんはよく立ち寄っていた。
「スマイル」はママがアマ女流強豪で、女性将棋同好会のフェアリープリンセスの創始者。
お客さん同士、あるいはママと将棋が指せる店だった。
克己さんは酔うと、嬉しそうに息子である郷田棋王の話をすることもあったという。
克己さんは将棋ペンクラブの会員だった。
将棋ペンクラブ会報の発送作業のとき、”郷田克己”と書かれた宛名シールを発見して、湯川博士さんに「もしかして郷田九段(当時)のお父さんですか?」と聞くと、そうだという返事。
なぜだか、とても嬉しかった記憶がある。