近代将棋1999年9月号、「米長永世棋聖のQ&A」より。
Q.七大タイトルを20代の棋士が全て持っていますが、これは当然ですか?
A.3、4年経てばタイトル保持者は皆30代になります。一人だけ50代も居るけどね。
Q.米長永世棋聖の目にはどう映っていますか。①佐藤康光名人、②藤井猛竜王、③郷田真隆棋聖、④羽生善治四冠
A.
①佐藤名人
芸術家。読み筋を信じて踏み込むのが長所。
②藤井竜王
大山康晴十五世名人をちょっとだけ弱くした将棋。ようやく花が開いた。もう少し強くなれば永世竜王になれるだろう。
③郷田棋聖
鋼鉄の線。細く見えても強度があり、弾力がある。ダイエットすれば大スターになるだろう。
④羽生四冠
頭脳明晰で柔軟性がある。将棋だけでなく世間を知っており、全てにおいて群を抜いている。「妬む小人も多い」ことを念頭に置けば光は消えずに輝く筈だ。
(以下略)
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郷田真隆棋聖(当時)の”鋼鉄の線”とは、非常にうまい表現だ。
佐藤康光名人(当時)の”芸術家”も、とても雰囲気が出ている。
藤井猛竜王(当時)の”大山十五世名人をちょっとだけ弱くした将棋”。当時の藤井竜王のオーソドックス四間飛車の見事な指し回しを見た米長永世棋聖が、「あの男を思い出す」と言っている。
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米長邦雄永世棋聖が引退発表をした翌日の2003年11月28日、王将戦挑戦者決定リーグ戦5回戦(米長邦雄永世棋聖-佐藤康光棋聖戦)があった。
佐藤康光棋聖(当時)は和服で対局に臨んだ。
12月9日の王将戦挑戦者決定リーグ戦6回戦(米長邦雄永世棋聖-森内俊之九段戦)でも、森内俊之九段(当時)が和服で対局に臨んだ。
そして、米長永世棋聖の現役最後の対局となったのが12月12日の王将戦挑戦者決定リーグ戦最終戦(米長邦雄永世棋聖-郷田真隆九段戦)。郷田真隆九段も和服で対局を行っている。
大棋士の引退に際して和服で対局に臨む、素晴らしいことだ。
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引退を決めた棋士との対局での服装。
リーグ戦だから迷わずに和服を着ることができたのだと思う。
もし、トーナメント戦だとしたら・・・
引退が決まった棋士にとっては、その勝負が現役最終局になるとは限らない。
相手が和服で対局室に座っていたとしたら、引退を決めている棋士は「この野郎、俺が負けると決めつけているのか」ということになり微妙な空気が流れるかもしれない。
「今日はあなたの現役最後の日にしてあげますよ」と宣言をしているようなものだ。
とりあえず背広で対局を始めて、引退を決めている棋士の必敗局面になったら和服に着替えるというのも味が変だ。
しかし、もう一方で、勝負師なら、棺桶を一緒に持ってきている必殺仕事人のごとく、トーナメント戦においても和服で臨むのがあるべき姿だ、という考え方もできる。
なかなか難しいところだ。