棋士たちの一泊二日旅行

近代将棋1991年7月号、故・池崎和記さんの「福島村日記」より。

某月某日

 福島村スプリングツアーで大津の石山寺へ。一泊二日の小旅行。坪内六段、森五段、東六段、脇七段、浦野六段、池崎の常連メンバーの他に、中田章道五段と村山聖五段が特別参加。

 当初は下呂温泉に行く予定だったが、「下呂まで行って一泊二日じゃもったいない。近場でいいんじゃない?」という意見が出て、第二候補として雄琴温泉が出た(推奨したのは浦野さん)

「雄琴へ行って何すんの」 「誤解しないで下さいよ、雄琴は由緒ある温泉です」 「今回のメンバーじゃ、変なところへ行くのはおらんし、まあエエか」で、決まりかけていたのに、だれかの

「そやけど雄琴やったら、奥さんが”絶対行かせへん”言うとこが出てくるで」

 という一言が効いて(何とまあ小市民的な)、雄琴案はボツ。結局、森さん推薦の無難な石山寺に落ち着いた。どうせマージャン旅行なんだから、どこでもいいのに。ボクは新開地でもいいよ。

 全員参加のマージャン大会(公式ルール)は森、東、脇、池崎が予選を突破し、大接戦の末、脇さんが優勝。

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森信雄五段(当時)と村山聖五段(当時)の師弟が一緒に行った旅行というのは、数少ないのではないだろうか。

そういう意味でも貴重な記録だ。

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雄琴温泉は、滋賀県大津市の琵琶湖西岸にある温泉で、最澄が開いた湯とも言われている。

周辺には比叡山延暦寺とその門前町坂本、日吉大社、堅田の浮御堂、園城寺(三井寺)、紫式部で有名な石山寺など歴史ゆかりの文化財が多い。

名物料理は鴨料理や近江牛料理。

その一方で、1970年代以降、温泉街の南側の特殊浴場を中心とした風俗街が発展した。

東京の吉原、川崎の堀之内、神戸の福原、などと並び称されるほど、発展した。

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そうなると、「雄琴」=特殊浴場のメッカ、というイメージが全国的に強くなり、浦野真彦六段(当時)が雄琴温泉行きを提案したものの結局は流れてしまったように、雄琴という地名の印象が非常に偏ったものとなってしまった。

雄琴温泉街では、特にバブル景気崩壊後、観光客が減少したことから、このことに危機感を持って、積極的なイメージアップ作戦を展開した。

各旅館とも団体客向けから女性客や家族客などを対象とした改装を実施、趣向を凝らした露天風呂や創作料理を提供したり、サービス改善に努めたり、ハード面・ソフト面双方の改善を推進した。

また、「雄琴温泉」という表記から「おごと温泉」に、「雄琴駅」は「おごと駅」に改称。

近年ではそのような積み重ねの成果が出て、宿泊客数が増えているという。

なかなか大変なことだったと思う。

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男だけの旅行というと、結局は泊まりに行っても、多くの場合は、コンパニオンの女性や芸者さんを呼んで宴会をやるだけだったり麻雀旅行だったり。

翌朝の食事の時に、「別にここに来なくても同じ遊びができたよな」と誰かが自嘲気味に言うのが定番となっている。

しかし、それはそれ。観光などしなくても、全く違う場所へ行って楽しむことが、大いなる気分転換になるのだと思う。

後になってからも、良い思い出になるものだ。