井上慶太六段(当時)の秘策

将棋世界1994年10月号、神吉宏充五段(当時)の「対局室25時 in 関西将棋会館」より。

将棋まつり夏の陣

 暑さがピークとなる季節に、毎年恒例の行事がある。将棋まつり。これを楽しみにしているファンの方も多いはず。今年も各地で盛大に行われ、人気棋士もたくさん参加した。

 関西最大、いや日本で一番規模の大きい将棋まつりといえば、やはりここ。大阪・近鉄百貨店でお盆の時期に催される「近鉄将棋まつり」。

 私は盛り上げ係とゆうか、総合司会で参加させていただいたが、猛暑に少しでも清涼感を出すつもりで、ゆかたのカンキで登場。しかしタクシーに乗ると「失礼でっけど、何部屋の親方?」って聞かれるし、百貨店の店員の人にも「お相撲さん」とか「髪の毛結ってはらへんから、きっと廃業しはった関取やで」と言われる始末。

 なんでや!将棋指しに見えるやろっと思っていたが、ファンにもらった写真を見て納得。どう見ても関取だす……。

よっしゃ!ワシもやりまっせ

 私がゆかた姿で出演すると聞いて、ファンサービスになるんならワシも!と言ってくれた男がいた。井上慶太である。おお、やってくれるか、嬉しいのう。と思ったが、彼は自宅の加古川から1時間ちょっとは洋服で、会場に着いてからゆかたに着替えるのであった。

 「おまたせしました」

 「おお慶太、馬子にも衣装やのう。よう似合うとるで。なあ、皆さん」

 「かわいいー」

 「へえ…でも帯結ぶんが苦労しましたわ。初めてゆかた着るんで、昨日4時間ぐらい練習しましてん」

 「ごっつい苦労やがな。で、今日の若手対局はこのかっこで?」

 「そうですねん。縁台将棋イメージしてどないでっか。それに神吉はん、ワシの用意したんはそれだけとちゃいますねんで」

 「なんか自信ありそうやな」

 「ふっふっふっ、勝負にも辛いワシでっせ。ちゃんと神崎はんと戦うための秘策を用意して来ましてん。どないだ」

 えらい自信の慶太を前に、神崎六段がどう応じるかだが…初手からご覧いただこう。

▲3六歩△7四歩▲3五歩△7五歩▲2六歩△7二飛▲2五歩△8四飛(1図)

井上神崎1

ちゃいますねん

 対局前、慶太はこんなふうに言っていた。「ワシの秘策は後手でも使える必殺技ですねん。▲2六歩でも▲7六歩でも関係ない凄い秘策でっせ!」

 果たして先手を神崎六段が振り駒で引き当て「そうか、秘策があるか」と呟きながら▲3六歩。慶太はなんでやとゆう風の顔で△7四歩。

 おお、これが練りに練った慶太の秘策なのか!

 「いや、ちゃいまんねん。流石のワシも▲3六歩だけは計算に入れとらなんだ。ちょっと誤算やけど、その後の指し方はなかなかのもんでっしゃろ」

 たしかに面白い序盤である。もう少し見てみよう。

▲4八銀△1四歩▲3七銀△1五歩▲6八玉△3二銀▲7八玉△7二銀▲6八銀△7三銀▲4六銀△8四歩▲6六歩△8五歩(2図)

井上神崎2

 どうだろう。初手▲3六歩の変化から予想出来ない変化となったが、実力者同士の戦いだけあって、想像力のある駆け引き。この後も大熱戦だったが、99手で神崎が制した。

 ところで秘策を出せずして敗れたゆかた姿の慶太。

 「神崎はん、そんな初手出すなんてて言いたいところやけど、ワシの秘策はここで見せれんかった分、もう少し練って公式戦で披露しまっせ!」

 そんな公約をしてくれた慶太の今後に期待したいが、ここまで書いて思い出した。前も慶太、10秒将棋トーナメントで、秘策やって叫んで村山七段にボロ負けしとったがな。大丈夫かなあ。

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井上慶太六段(当時)の2手目△7四歩も十分に秘策のように思えるけれども、そうではなかったというのだから、本当の秘策がどのようなものだったのか気になるところ。

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ところで、このブログはOCNのブログサービス(ブログ人)を利用しているわけですが、5月21日にブログ人のサービスが11月末日で終了することが電撃発表されました。

OCNブログ人のサービス終了について(NTTコミュニケーションズ)

まあ、このような発表は古来より常に電撃的であるとはいえ、私にとっては大ショックな出来事。

発表の中では、ブログの引越し先として同じNTT系の「gooブログ」が推奨されているものの、通っていた男子校が廃止され少し離れた男子校に編入学しなければならないような感じで、データ移行などのこれからの苦労を考えると、いままでと同じような雰囲気の「goo」に積極的に移りたいという気分でもありません。(URLがサブドメイン形式からサブディレクトリ形式に変わるなど細かくはいろいろと違いはありますが)

データ移行などがもっと大変になるかもしれないけれども、学校で例えると、どうせ転校するならもっと遠くてもいいので男女共学校に行ってみたい、のようなことが自分の頭の中では渦巻いています。

本来なら5月21日の「将棋ペンクラブ交流会の一日(2014年前編)」に引き続いて中編、後編を書かなければならないところを、21日夜に今回の発表を知り、それ以来はブログの引越し先をどうすれば良いかの調査に没頭しています。

私に秘策はあるのかどうか。

まだ、3つくらい乗り越えなければならない課題はありますが、近日中に、ブログ移転の詳細をご案内できればと思います。