新婚2週間後の木村一基五段(当時)と夜の行方尚史六段(当時)

将棋世界2002年2月号、野月浩貴五段(当時)の「野月浩貴の将棋散歩」より。

 11月16日、我が家に久々の来客があった。新婚の木村一基夫妻と行方尚史、それと競馬評論家の能勢俊介さんの4人。

 能勢さんは競馬界では知る人ぞ知る凄いお方で、競馬の神様と言われた故大川慶次郎さんの愛弟子にあたり、現在は新聞やテレビ、ラジオで大活躍されている。

(中略)

〔木村家の人々〕

 この日、7時に代々木の我が家に集合だったが、最初に来たのは連盟職員でもある木村夫人。地方の方に説明しておくと、連盟のある千駄ヶ谷と代々木は隣駅で、歩いても15分弱しかかからない。

 紅茶とアイスの差し入れを持ってきてくれた木村夫人を奥の(といっても狭い家だが)リビングへ勧めるが、キッチンのダイニングに座って、あんこう鍋係の私とオードブル係の妻が忙しく働いているのをホケーッと眺めている。

 そこへピンポーンと第2の訪問者がやってきた。旦那のミスター勝率1位男。

 旦那にも奥へどうぞと言いつつも何処へ座るのかなと思っていたら、のそのそと入ってきて、夫人の隣にちょこんと、ほんとにちょこんと控えめに座り、これまたホケーッとこっちを眺めている。

 この様子を見て、野月夫妻はお互いに顔を見合わせて大爆笑。

 だって…想像してみてほしい。リビングがあいているのに、戦争状態のキッチンのテーブルに座る新婚約2週間ほどの二人。その目の前では今まさに揚げている鳥のから揚げ(これは木村の大好物)といい匂いのあんこう鍋。それをテーブルの上で手をカチャカチャやりながらホケーッと眺められると、何処からか「おかーさん、ご飯まだー?」と聞こえてきそうな感じがしてならない。この4人が家族でもおかしくないなと錯覚してきた。

〔酒宴スタート!〕

 そーこーしているうちに、能勢さんが現れ、しばらくして予想通り遅刻で行方が現れ大宴会がスタートした。みんなで持ち寄った酒がどんどん消えていく。ビール、ワイン、日本酒…大部分が木村と能勢さんの胃の中へと消えていく。行方はマイペースで彼のためだけに買ってきたギネスビールを淡々と片付けている。

 木村はここ最近、神吉さんに鍛えられてから、将棋以上に強くなった気がしてならない。

 競馬や将棋の話、また11月3日に行われた木村の結婚式、などと最初は冷静な話をしていたが、酒の量が増えるとともに、段々とアングラな内容になっていき、最後には行方に恋愛論までご教授いただく展開となってしまった。

〔行方尚史よ何処へ行く〕

 そろそろ終電が近くなってくる。もう木村も行方も能勢さんもかなり酩酊状態となっていたのだが、いざ帰る段になって行方が「今日は自転車で来た」といつものように訳の判らないことを言う。

 うちから彼の家までは地下鉄で20分近くかかるのに大丈夫なのだろうか?しかも、まだ11月とはいえ外は息が白くなるほど寒い。「もしかしたら近くに女でもいるんじゃねえの?」と木村がからかうが、真面目な顔で「今日は家に帰る」と言い張る。この今日はというところに力を入れて喋るのが行方らしいが一応信じることにして家の前で行方と別れ、駅まで他のみんなを見送りに行く。

 本当に楽しい一日だったが、気掛かりは自転車で帰った行方。母性本能をくすぐる、彼の破滅に向かうかわいい行動は、時として他人を心配の極致へと追い込むこともある。

 だが、本人はいつものようにそんなことにはお構いなしで、鼻歌を歌いながらのん気に家路へと向かっているのだろう。

 嗚呼、行方尚史よ何処へ行く。

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読んでいるだけでも、この時の行方尚史六段(当時)が無事に帰ることができたか心配になってしまう。

酔って自転車に乗ったことはないが、運転自体がかなり難しいのではないか。そう考えると、行方六段は、途中で寝たりしながら自転車を押して帰ったのかもしれない。これなら道路交通法違反にも該当しない。

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木村一基五段(当時)の「もしかしたら近くに女でもいるんじゃねえの?」というセリフがあまりにも絶妙だ。

ちなみに木村一基八段は、4ヵ月前の将棋世界のインタビューでも大好物は鶏の唐揚げ(特に皮の部分)と答えている。

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自宅であんこう鍋というのも珍しいと思う。野月浩貴五段(当時)がみんなをもてなそうとしていた気持ちが伝わってくる。

あんこうの生臭さを除くための下ごしらえが必要なようだ。

自宅で美味しくあんこう鍋を作ろう!!(観光いばらき)

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あんこう鍋は、1993年の2月、水戸に出張した時に食べたことがある。

好きな人は大好きだろうなと思った。

私は焼き魚や魚のフライは好きな方だが、魚の鍋物はあまり得意ではない。ふぐちりも、雑炊の美味しさはわかるが、鍋そのものが特別に美味しいと感じるには至っていない。

カニや海老に対する私の評価は非常に高いが、アワビは現在に至るまでなぜあんなに珍重されるのかが理解できていない。

私は、本当に大人の味覚とは縁遠い人間だ…